ある地方の小さな素材製造業A社を取材した時のこと。注目の新しい原料を「うまく使いこなせそう」という話を聞いた。他の企業もその新原料を使おうとチャレンジしている話はよく聞くが、最終製品に必要な品質を実現するのは難しいと聞いていた。ところがA社は、「うちは2週間で求められる品質レベルをクリアした」という。
開発途中のため社名は伏せるが、同社の社長は「うちの技術と知見は新原料にも応用できるんじゃないか」と確信していた。依頼主は、要求していた素材があっさりとできあがり、とても驚いたそうだ。
これまでにも国内外のトップブランドから要望が舞い込み、新素材の開発を下支えしてきたA社。固有の技術を駆使し、「海外にもっと販路を広げたい」という。同じく固有の技術を持つ国内の中小製造業者と連携して新素材の開発を進めたいという思いも強い。
国内製造業はコスト高や人材不足などに直面し、物作りの現場はますます疲弊している。一方で、まだまだ意欲的な製造業者も少なくないと取材を通じて気付かされる。コロナ下も独自技術を磨いて独自性を追求し、時には企業間連携で得意技をかけ合わせ、世界へ打って出る準備を地道に進めてきた。これまでの取り組みが今年、わずかでも実ることを願う。
(嗣)