《視点》6年

2023/03/07 06:23 更新


 ある縫製工場の経営者は「入社して6年。そこで立ち止まって人生を見直して欲しい」と新入社員に伝えているという。

 その工場はデザイナーブランドを中心に受注しており、高難度の物作りに定評がある。若手を指導する技術者も揃っていて、ジャケットやコート、ブラウス、パンツなど1年に1アイテムを丸縫い出来るようになれば、およそ6年前後で、フルアイテム縫える一人前に育つ計算だ。ただ工場としては一人前に縫えるようになるまでは、投資期間ともいえる。成長してからが、会社に利益を生み出してくれる戦力になる。パーツ縫いではなく、丸縫い出来る技術者を育成しているのだからなおさらだ。

 しかし、長いスパンで見た場合、一つの工場でずっとキャリアを積むのがその社員にとって本当に良いのか。それをこの経営者は考えた。途中で結婚や子育てで仕事を離れてもいいし、別の業界や他の工場に転職をするのも一つの手だ。実際、元縫製工員として働いていた若手は、現在服飾専門学校で縫製について教壇に立つ。そういったことを経験して、また工場に戻って来て力を発揮してもらうという手もある。

 裏を返せば6年間で辞められるだけの力を付けろ、つまりは「真剣に縫製と向き合え」というメッセージなのだろう。

(森)



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