《連載 アイデンティティーは何だ?~ヤング市場で闘う①》
「ブランドらしさと向き合う」 いいものを作ってしっかり売る 女の子のマインドをつかむために
「服を買わない」「ブランドに興味が無い」「いざ買う時はものすごく慎重に比較検討する」。10代後半~20代前半を主対象とするレディスのヤングブランドで、消費者のマインドの変化を指摘する声が強まっている。こうした変調に苦戦するブランドが多い半面、ヤングの心をつかんでいるブランドもある。彼らに共通するのは、トレンドや他社の動きに流されることなく、ブランドらしさや顧客と実直に向き合う姿勢だ。
◇原点をやるだけ
「難しいことや新しいことをやっているわけじゃない。いい商品を作って、一生懸命売る。商売の原点です」と話すのは、「リガレクト」を手掛けるアストニッシュコーポレーション社長の岡田泰一。同ブランドは14年秋に渋谷109に1号店を出した。館全体の苦戦をはねのけて、好調に推移している。
売れているのは、ブランドの顔であるデニムアイテムだ。全て国産で、岡山・児島の職人と二人三脚で作る。価格は1万5000~1万7000円が中心。2万円台後半の商品もある。セールが常態化し、1万円を切っても高いと感じるムードの中で、それが売れている。
「オープン前は売れるわけがないと言われたし、自分自身も月間で600万円売れたらいいと思っていた」。それが、オープン翌月の9月に1800万円をたたき出し、10月は1350万円。その後も毎月1000万円以上を売り上げている。購買客の中心は20代後半以上だが、10代や20代前半の客もしっかりつかんでいる。
支持される理由は、ずばり「ものの良さ」。デニムのほか、合わせるカットソートップ類も素材やパターンを追求。VネックのTシャツは5200円。「この値段でこれよりいい素材は他に無い」と言い切る。「若い消費者は、ものの良しあしが分かりますか」と問うと、「細かい良しあしは分からないかもしれない。でも、すごく良いものであれば誰でも分かる。だから中途半端なものは作らない」という。
原価率は「40%前後」。その高さに驚くが、「安売りせず、消化率を高めればいい」という。広告費はかけないし、社員もベテランを中心に少数精鋭。この規模の企業だからこそできるビジネスモデルであり、そのまま他社に応用できるものではない。しかし、「いいものを作ってしっかり売る」というポリシーは、どんなブランドにも通じるはずだ。
◇追われても先へ
バロックジャパンリミテッドの「リエンダ」も、14年秋以降好調に推移している。14年8月~15年1月は、既存店売り上げが前年同期比9・5%増。同質化を課題に13年秋、MDを20代後半以上向けに変更したところ、客が離れて不調に陥った。それを1年かけて修正し、再び20代前半客をつかんだ。「初心に戻って、客が求めているものを見つめ直した」(リエンダ事業部事業部長の寺真矢)成果だ。
リエンダだけでなく、MDを大人向けに振ったヤングブランドは多い。商業施設の来館客数が減るなか、ヤングより購買力のある層を狙った方が効率的で、単価も上げられるからだ。大人っぽいシンプルスタイルがトレンドとなったことも影響した。しかし、うまくいっているのは一部で、多くはブランドイメージがあいまいになり、客離れが起こった。
リエンダは元々、露出の多い女性らしいドレスが得意なブランド。今春もミニのベアドレスが売れている。しかし13年秋冬は、大人っぽさやトレンドを意識して、ハイネックなどの露出を抑えたデザインを増やしていた。当時客から聞かれたのは「最近、守りに入っている」という声。「トレンドや周りに影響されず、このブランドにしか無いものを作らないといけない」ことを痛感したという。
売れ筋が出れば、低価格の追随品がすぐに出る市場。しかし、「追随されたとしても、さらに新しい商品を出す。そんな提案をしていかないといけない」。
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08年の海外ファストファッション進出以来、ヤング市場は価格追求の波に飲み込まれ、同質化が極まっている。少子化により、国内のヤング市場も年々縮小している。この連載では、成果を出そうと、もがきつつもヤング市場で様々な挑戦を続けているブランドを追う。(敬称略)