《連載 アイデンティティーは何だ?~ヤング市場で闘う~②》
「フロア買い」から選ばれる 修正ありきでない物作り
マスマーケットのカジュアルゾーンでは、ブランドを目的に買う消費者は少ない。商業施設の1フロアをぐるりと周り、似たアイテムの中から1点を吟味する客ばかり。こうした〝フロア買い〟と言われる比較購買は、各ブランドの同質化の象徴だ。販促や協業など様々な手で差別化を目指してきたが、ここにきて改めて、比較されても勝てる商品を作るという正攻法に向き合っている。
◇一番重宝されたい
「修正ありきで物作りを進めると方向性がぶれる。計画がないとズレに気がつくこともできない」と話すのはローリーズファーム営業部部長の千葉貴裕。アダストリアホールディングスの主力「ローリーズファーム」は今春、米・老舗デニムメーカー、コーンミルズの本格的なデニムを使ったパンツやGジャンを発売した。販促を含めて大々的に素材で打ち出すのは初めてだが、売れ行きは好調という。
今、千葉が進めているのが計画生産の仕組み作り。これまでは売れ筋を引きつけてQRで追いかける手法で、他社との同質化を深めた。そこで、一部QR生産を残しつつ、今後は約10カ月前から物作りに着手する。他社と比較された時に商品で勝て、一番重宝されるブランドを目指すためだ。
本来の客層は広い。それを、自ら若い方に狭めてしまっていた反省から、改めて〝全ての女の子〟を対象に設定、デニムの例のように一つの商品を深めつつ、スタイリング次第で客それぞれのベーシックに応える。一方、計画生産の提案が独りよがりにならないよう、「女の子の声も吸い上げ、一緒にローリーズファームを作っていきたい」
◇自らを深掘りする
「今までは周りを見過ぎていた。今、大切にしているのは競合に左右されずに自分たちのポジションを深掘りすること」と話すのは、ナイスクラップ「ワンアフターアナザー・ナイスクラップ」ディレクターの日高亜衣。3年前から同質化を抜け出す方法を模索してきた。様々なトライを経て、今春は2月の売上高が既存店ベースで前年比17%増。復調の兆しが見え始めた要因の一つは、商品を通して立ち位置を見つめ直した成果だ。
「この間の競争の中でブランドの軸を見失い、あえて言えば〝安くて可愛い〟が特徴になってしまっていた」。そこからの脱却のために「もう一度ナイスクラップに求められる物とは何か」を手探りしている。一つひとつの商品に「どんな子に買ってもらいたいか」という意思を込め、その反応や売れ方を蓄積している。浮かび上がったのは「やっぱり可愛いは外せない」こと。加えて「日常着だけどカジュアルすぎないバランスで、必ず甘いディテールが必須」というキーワードが見えた。自社パタンナーでシルエットにこだわった物も支持されている。
全てが固まった訳ではなく、今後も挑戦は続く。しかし、「見比べられてもウチの商品が一番良い。そう思った物は確実に売れる」手応えが出てきた。(敬称略)