《連載 アイデンティティーは何だ?~ヤング市場で闘う~⑤》
「ターゲットを決めつけない」オタだっておしゃれしたい
服に興味が無いなら、何であればヤングは興味を持ってくれるのか。アニメ、音楽ライブ、あるいはSNS(交流サイト)。悩みながらも彼女たちの気持ちに真剣に向き合うことで、新たな市場が開けることもある。そこには、従来のビジネスでは出会えなかったヤングたちがいた。
◇自身も好きが前提
「オタ(オタク)の人たちって、仲間の目が気になっておしゃれが恥ずかしい。だけど『ジャパンレーベル』(JL)の服なら、『あの作品とのコラボだから!』と堂々と言える」。クロスカンパニーのアースミュージック&エコロジー事業部企画チーム課長の青木佳世は、日本のクリエーター、アニメ、漫画とコラボレーションするアースのジャパンレーベルを担当している。
青木自身もアニメや漫画が大好き。コミックマーケット(コミケ)の活況ぶりに興味を持った社長の石川康晴とともに同会場を訪れたのをきっかけに、12年春、「初音ミク」とのコラボからJLはスタートした。
熱狂的なオタがいればいるほど、コラボ商品は批評の対象になる。大前提として青木たち自身が好きな作品であることなど、作り手側の熱意が伝わることを重視している。それでも、発売前は怖くて夜眠れないことも。「実際、ネットでたくさんディス(馬鹿にしたりけなすこと)られる。でもたくさんの人が買いに来てくれた」
昨秋、発売した『弱虫ペダル』とのコラボでは、池袋サンシャインシティ店に開店前1000人の行列ができた。「半年分の在庫が1日で売り切れた」という。ネット上のディスも、それは「『もっとこうしてほしい』という願いなんだ」と気がつき、改善のヒントになった。
◇着られるコラボ
商品企画のポイントは、オタが見ればコラボ服と分かること、でもちゃんと着られるデザインであること。「ラブライブ!スクールアイドルプロジェクト」とのコラボでは、キャラクターをイメージした全身コーディネートを提案。ごく普通の子が着るような可愛らしい服だが、コートの裏地の柄、ボタンに刻んだマークなど細部にキャラクターの要素を散りばめた。昨年末のコミケ会場でも大人気だったという。
「ファッションのお店って、オタの人にはすごく敷居が高い」。しかしJLを作ったことで、彼女たちがお店に来たり、アースのほかの商品にも興味を持ってくれるようになった。JLのレディス商品をうらやましがる男の子オタからの熱い要望を受け、今後はメンズ用も企画したいという。「タイミングときっかけさえあれば、服はきっとまだ売れる」
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厳しい市場環境や競合相手についていこうと周りを気にするうちに、レディスヤングブランドはアイデンティティーを見失った。ブランディングも迷走し、視界は曇るばかり。しかし、今回の連載で取り上げたブランドは、改めて自分たちの強みを見つめ、顧客一人ひとりの顔を想像し、良い商品を作って売ろうと奮闘している。結局、奇手妙手はなく、真っ当な商売をするしかない。今一度、自分たちの立ち位置を確認して前に進もうとしている。(敬称略)=おわり
(五十君花実、岸田紘一郎、石井久美子)