《連載 次代への襷》⑦ アルデックス (本紙1月24日付け)

2013/06/20 21:10 更新


 大きな音が響く本社縫製工場を入ってすぐ左の小さな部屋。中には生地、ミシン、机、ホワイトボードが整然と並んでいる。部屋の入り口には「匠塾~ものづくりは人づくりから~」という看板。ここは服作りを学ぶ塾だ。  そもそもの始まりは約10年前。高品質なスーツやジャケットを生産するアルデックスには外部の企業からの人材育成依頼が多かった。それが次第に社員による勉強会に自然派生し、匠塾として活動が始まった。3年前に社員の入塾はやめて、外部からの入塾希望者を山口達三社長自らが面接して採用するやり方に転換した。「業界を背負って立つ人材の育成が急務」との思いからだ。  1年次の前期は講師によるビジネスマナーや縫製の基礎など基本事項を学び、後期は裁断や縫製実技に入る。工場でのOJT(現場教育)は年間を通じて経験する。2年次にはより実践的になり、パターン設計やフィッティング、CAD(コンピューターによる設計)のほか、経営学も勉強する。  珍しいのは入塾後に支給する奨学金制度だ。支給額は年間100万円。返済は不要。塾は2年なので一人につき200万円が支給されることになる。塾生にとって生活費を稼ぐため学びながらのアルバイトは楽ではない。この制度があれば学ぶことに集中できる。  卒業後の進路は本人に委ねる。普通は費用と時間、労力をかけて育成した人材は自らの企業に入ってもらいたいはず。それを「うちを気に入れば入社すればいいし、ほかの企業が良ければそっちに行けばいい」と山口社長は言い切る。実際、昨年4月に塾を卒業した4人の進路は様々だ。  業績が好調なわけではない。縫製業は赤字。違う事業での稼ぎで穴埋めして会社を回しているのが現状だ。それでも「人材がいなければ、良いものを作れなくなってしまう。人材を守るのは会社を守ることにつながってくる」と山口社長。今年も匠塾で学んだ生徒が巣立っていく。   【企業メモ】 創業=1958年 所在地=愛知県豊橋市菰口町2の60 業種=紳士服縫製加工及び販売。高級ブランドを専門に年間6000着を生産する。


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