《連載 次代への襷》⑧ 及川被服 (本紙1月28日付け)
2013/06/21 21:12 更新
作業中の工場内を爽やかな笑顔で案内する若い男性。採用活動の一環として、自ら工場見学をアテンドする及川栄樹常務だ。興味を持った学生ならば、放課後だろうが、部活後だろうが、いつでも歓迎。たった1人でもじっくり1時間以上をかけ、実作業を体験する機会も設ける。もちろん手間はかかるが、「ミスマッチをなくすため、良い所も悪い所も全て見てもらいたい。応募や合否に関わらず、若い人たちの良い経験になればいい」と話す。
同社はユニフォームボトムの専業工場。及川さんは35歳の若手経営者で、現在はグループ会社の米山アパレルの社長を兼務する。もともと東京で全く違う仕事をしていたが、創業者である父の熱い説得により、家業を継ぐことを決めた。帰郷して驚いたのが、「20代、30代の社員が全くいない」という自社の高齢化。その時に抱いた「自分と共に、若手が成長できる環境を作らねばとの思いを原動力に人材確保に力を入れてきた。
中小の縫製工場にできる採用活動は限られており、地元で就職を希望する学生も少ないが、「ただ嘆いていても仕方がない」。及川被服という会社の存在と、ものづくりの楽しさを、丁寧に、地道にアピールし続けた。通勤圏内の学校に足しげく通い、あらゆる合同説明会に参加。手作りのパンフレットにもこだわり、社屋も再塗装した。何より「自分が会社を最もうまくアピールできる一番の営業マン」という若い力が武器だ。以来、定期的に複数の採用ができるようになった。入社時に立てた目標は「10年後に平均年齢40歳を下回る」。今年の春入社で達成する見込みだ。
社員と一緒に成長する、という姿勢は教育に表れている。有志を募って立ち上げた社内勉強会「縫製研究会」がその一つ。仕事終わりや休日を使って紳士服製造技能士2級の取得へ向けた修練を積んでいるが、最初に試験を受けるのは及川さん自身だ。「社員も意欲的だが、僕にとってのモチベーションや勉強にもなっている。だって負けてられないじゃないですか」。共に次代を作るため、若き経営者の挑戦は続く。
【企業メモ】創業1975年▽業種=学生ズボン・官庁制服・紳士スラックス製造▽所在地=宮城県登米市米山町▽従業員=74人▽生産能力=年間13万本