21年秋冬オートクチュール それぞれのオリジンを背景に

2021/07/15 06:26 更新


 21年秋冬オートクチュールは、デジタルとフィジカルを生かしながら、それぞれのブランドのオリジンを背景にしたコレクションが広がった。

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〈デジタル〉

 フェンディは、キム・ジョーンズによる2回目のクチュールを披露した。秋冬はローマの映画監督ピエル・パオロ・パゾリーニの詩情あふれる作品から着想を得たコレクション。「パゾリーニは近代化していくローマを目の当たりにしました。時代をつなぎ、古きものと新しきもの、過去と現在を結びつけること、そこにこそ私は興味を引かれるのです」とキム・ジョーンズ。異なる時代を重ね合わせる手法として、ファーやファブリックをスキャンしてシルクジャカードとして再現した。また、コルネーリ刺繍とクリスタルビーズをはめ込み、現代の中に詩的に変貌(へんぼう)を遂げた過去を投影したという。フェンディパラッツォのアーチが象徴的に映像に取り入れられ、そのアーチを模した曲線のヒールを付けたシューズも登場した。メタルシートのドレスは構築的なフォルム。白いジップブルゾンとタイトスカートは透け感のある立体的な刺繍で装飾された。イタリア産の大理石を手彫りして作られたジュエリーも登場した。

フェンディ

 ジョルジオ・アルマーニ・プリヴェは2シーズンぶりにパリでショーを開き、その映像を配信した。コレクションは、これからの未来を象徴するような明るい雰囲気で構成された。アルマーニらしい構築的なシルエットのジャケットとパンツの組み合わせが軸となる。象徴的なのはサテンやシルクの光沢感あふれる布地。そしてパンツやコンビネゾン、ドレスには極細の金属糸を織り交ぜた生地を使い、液体が流れるようなしなやかなきらめきをのせる。そんなフューチャーリスティックなパンツと合わせるベルベットジャケットは、コンケープトショルダーで肩のラインを強調。後半は、チュールやラッフルのイブニングドレスやスカートを揃えた。ブルー、ブラック、インディゴ、パープルピンク、柔らかなベビーピンクといった色使い。

ジョルジオ・アルマーニ・プリヴェ

(小笠原拓郎)

〈フィジカル〉

 ユイマ・ナカザトは、横浜・大さん橋ホールで観客を絞って行ったランウェーショーを配信した。ブルーの光が差し込むなかで、人間の強さと自然のダイナミックな優しさを融合した造形性にあふれるスタイルを見せた。カシュクール仕様のドレスにコートを重ね着するなど、和装をベースに独自の技術を発展させている。黒のパネルをつないで作ったコートドレスやフレア袖のジャケットは、まさに甲冑(かっちゅう)のよう。針と糸を使わずに特殊な付属で布をつなぐ「タイプワン」の延長で、ビンテージのレザーウェアをアップサイクルし、テーラードのフォルムへとパネルの大きさを調整してつないでいる。

 きものの直線的なシルエットとコントラストを成すのは、うねりを描くテキスタイルを生かしたケープやドレス。ホワイトからブルー、ネイビーからブルーへとグラデーションを伴い、宇宙からの使者を思わせる神秘的なムードで見せた。視覚情報が優位とされる現代社会で「音を感じることから組み立てた」と中里唯馬。環境問題の象徴でもあるクジラに着目して、クジラの声を視覚化し、そのデータを「バイオスモッキング」技術によって生地の形状で表現した。「誰かの声を録音し、凹凸や色、フォルムを生成する。一点物を作るオートクチュールの新しい形になるのではないか」という。

ユイマ・ナカザト

(須田渉美)

〈フィジカル〉

 シャルル・ドゥ・ヴィルモランはフィジカルのプレゼンテーションをした。パリでオートクチュールを前に新生「ロシャス」の、なんとなく服の見えるプレコレクション映像が公開されていた。イヴ・サンローランの再来とも言われる弱冠24歳の彼が新しいクリエイティブディレクターとして就任して初めてのコレクションだ。シャルル・ドゥ・ヴィルモランと言えば、昨年末のクリスマス時期にアップルのCMにも使われていたカラフルかつグラフィカルなボンバージャケットが強く記憶に残っている。

 プレゼンテーションの会場に入って目を疑ったのは、一切の色を排し黒一色にコレクションが染まっていたからだ。「カラフルで覚えられるのが嫌だった」と言うが、パンデミック(世界的大流行)やロックダウン(都市封鎖)の影響もあったようだ。そんな中でシグネチャー的なボンバージャケットのセットアップや、ブランド名を織り込んだモノグラムアイテムなど、〝売る〟要素が加わっていた。「ロシャスではどのようにコマーシャルな部分を広げるかを学んだ」と話す。

シャルル・ドゥ・ヴィルモラン

(ライター・益井祐)



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