イタリア・フィレンツェで「ドルチェ&ガッバーナ」のハイジュエリー「アルタ・ジョイエッレリア」と男性用高級仕立服「アルタ・サルトリア」、女性用高級仕立服「アルタ・モーダ」の発表イベントがこのほど開かれた。イタリアと欧州の顧客やプレス関係者ら250人を招待して観客を伴うショーと展示会、ディナーパーティーなどを3日間にわたり実施した。「ルネサンス発祥の地」であり、職人技の伝統を受け継ぐ土地フィレンツェから、イタリア・ファッションの美とその再始動を力強く発信した。
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アルタ・サルトリアのテーマは「ルネサンス」。ショー会場は、フィレンツェのルネサンスを象徴する場所ヴェッキオ宮殿の五百人広間だ。「イタリアは職人技の上に成り立っている。個々の才能と技術があり、それが世界にも類のない製造業の礎だ。イタリアの美と熟練の物作りの素晴らしさにオマージュを捧げる」とデザイナー。「グローバル化、商業至上主義によって、『芸術』が見過ごされるようになってしまった」という現状へのアンチテーゼだ。また「我々は、ソーシャルネットワークという均一化のシステムを作ってしまったが、服作りは〝儀式〟ともいえる奥深い考察と時間を要するものだ」とも語る。フィレンツェの芸術・職人工房との協業によって製作されたコレクションには、織物、銀器、モザイク、靴、額縁、製本、ビーズ細工など様々なカテゴリーの伝統的な工房の技が生かされている。宮殿入口では、それら工房の自社作品の展示が行われた。歴史ある工房の次世代を巻き込んで協業することで、伝統を守りながらも創造性あふれる新たな課題にチャレンジする動機付けにも成功した。
ショーでみせたのは、フィレンツェの「ユリの紋章」を羽毛で描き出したチュニック、五百人広間のフレスコ画をモチーフにしたローブコート、カラーストーンを立体的に刺繍したスモッキング、象眼細工のようなレザーブルゾンなど、美術工芸品のような服だ。「パンデミックにより、美や自然について考える機会が持てた、田舎や自然の魅力、時間の流れに対する価値を再発見した」ことを反映し、両手に果物かごを下げた農民も登場した。現代へと脈々とつながる、ルネサンスに高度に発展した芸術、文化、知識、そして自然の素晴らしさ。イタリアの美をうたいあげた。
アルタ・モーダのテーマは「再生」。イタリア語でアルタモーダと呼ばれる高級注文婦人服は、1951年、フィレンツェでジョルジーニ侯爵がイニシアチブを取り誕生した。伊で初のファッションショーだった。その映像からインスピレーションを受け、「フランスのオートクチュールとは異なるイタリアならではの職人技と仕立てに支えられたアルタ・モーダに光を当てる」のが、今回のコレクションの根底に流れるデザイナーの意思だ。
フィレンツェの街を一望する丘にあるバルディーニ宮の庭園を会場に、花のモチーフをふんだんに取り入れたカラフルで華やかなコレクション。シルクサテンやリネン、ラフィア、サンゴなど、多種多様な素材を立体的な花のモチーフに刺繍したコートやドレスを揃えた。ツイードの50年代風クラシックスーツにも、花が散りばめられる。花の色を映して大胆に配したシフォンのロングドレスや千鳥格子のカシミヤのドレス下にのぞくのは、構築的なビュスティエ。大聖堂などのフィレンツェの代表的建築物をコラージュしたドレスやガウンもある。フィレンツェの金細工をほうふつさせるゴールドのドレスには、ラフィアやかぎ針編みの装飾があしらわれて、「日常に根付く手仕事」への誇りがみえる。70もの異なる技法を用いたという刺繍は全て、若い女性メンバーを中心とする自社刺繍工房が手掛けた。象眼細工や木彫などの技を用いたハンドバッグには、フィレンツェの職人技へのこだわりがみえる。
会場は世界最古の薬局
アルタ・ジョイエッレリアの会場は、400年以上の歴史を持つ世界最古の薬局「サンタ・マリア・ノヴェッラ」だ。咲き乱れる花や果物、大きな石を色とりどりに組み合わせた大ぶりなネックレス、イヤリング、指輪のセットアップ、紳士用時計などを発表した。
このイベントは、7月からデジタル見本市を開催中のピッティ・イマージネ・ウオモの特別イベントとして位置づけられ、フィレンツェ市や業界団体などを巻き込んだ。参加型イベント実施が困難なコロナ禍の今、あえてリアルなショーを行う勇気と行動力は、業界全体に明るい未来を切りひらくムードを広め、伊ファッション全体にとっても記念すべきものとなった。
(フィレンツェ=高橋恵通信員)