教訓~百協「震災対応の記録」を読む・Ⅰ

2012/08/31 13:35 更新


避難誘導、想定がカギ 救急車には頼れない

 日本百貨店協会は昨年11月、仙台市内と首都圏の主な百貨店にヒアリングし、東日本大震災での対応を踏まえ、災害時の課題や教訓をまとめた。同報告書には防災や災害後の事業継続に不可欠な視点が記されており、百貨店のみならず大型施設の運営管理者にとっても役立つ内容となっている。

 

火災、停電に備え

 まず被災時の避難誘導について、日常的な訓練の重要性を指摘する。仙台の百貨店では今回、お客の避難誘導に際し、大きな事故は無かった。日常的に行われていた避難訓練の成果と考えられる。ただ、窓の少ない百貨店は、地震による火災や停電でパニックが起きやすい条件が揃う。今回の震災でお客をスムーズに避難誘導できたのは、火事が無く、館内の非常灯もある程度点いていたためと言われている。売り場単位での防火訓練の実施や、事前に落下物の危険の無い避難経路の周知、お客に対する的確な声かけの練習などが求められる。

 こうした上で避難訓練の方法と想定の見直しにも言及する。避難訓練は開店前に行われることが多く、遅番出勤者らは訓練に参加できていない。従業員全体の知識と技能向上のため、全員参加を義務付ける取り組みが必要だとしている。

 また、通常の訓練では1階まで避難させたところで終えることが多い。しかし、実際は、1階まで誘導した後、いつ館外にお客を出すのかという判断や、避難所への案内も必要だった。例えば、一部外壁が落ちた百貨店では、1階に誘導した後、二次災害に備え1時間ほど1階にとどまる判断がされた。別の百貨店では近くの避難所までお客に付き添ったケースがあった。前者については館内待機と館外退避の判断基準を事前に明らかにしておくこと、後者については警察官や自治体職員が誘導案内するのが原則で、百貨店としては口頭での案内や地図の掲示での対応が適切だとしている。

 

どこに置く救護所

 けが人や急病人への対応については、救急車には頼れない実態も浮き彫りになった。救急車の派遣要請から現場到着まで仙台市内では3時間、首都圏では5時間を要した。広域災害時には派遣要請が集中することから、救急車以外の代替手段をあらかじめ確保し、直接搬送を念頭に置くことが求められる。

 応急救護所や重傷者の待機場所の設置も検討事項だ。仙台市内の百貨店では館内の被害が大きく、3階の診療所が使用できず、やむを得ず1階の防災センターに負傷者を運び、救急車を待ったという事例があった。百貨店は店舗構成上、1階に診療所を設けるのは難しいが、災害時に開く応急救護所の安全な設置場所をあらかじめ選定しておく必用がある。

 

複合ビルで混乱も

 今回のヒアリングでは、震災直後に多くのお客と従業員が冷静さを失ったため、館内放送の内容が十分に聞き取られていない事例も明らかになった。「館内放送は安心放送」と言われるように、注意喚起や従業員に対する緊急対応の発動、お客への適切な情報提供などに有効だ。簡潔な放送例文の準備や、繰り返して放送すべき内容の選定、放送内容に連動した従業員の対応ルールの確立を呼びかける。

 加えて、複合ビル内の店舗では、ビル全体を管理する防災センターが流す館内放送が優先され、混乱が生じるケースが見られた。平時から百貨店(テナント)と防災センターの間で話し合いを進め、災害時の放送に関するルール作りや、放送内容の確認、百貨店側の要望を伝えておくことなどが必要になる。

 

 

『東日本大震災における対応の記録~百貨店の対応体制強化に向けて~』

 日本百貨店協会防災マネジメント部会が会員店の防災や事業継続への取り組みを強めることを目的にまとめた報告書。67ページにわたるもので、各店の対応事例も豊富に紹介されている。協会ではこれまでも『百貨店のためのBCPガイドライン』(07年)、『改正消防法対応防災訓練ガイドブック』(11年)など、被災時における安全確保の指針を策定してきた。



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