【ファッションとサステイナビリティー】活発化するDtoCビジネス こだわりの商品、適正量を作り、適正価格で売る

2021/06/16 05:59 更新


 昨今注目されるDtoC(メーカー直販)は、ECを主販路に、強いつながりを持つ顧客に適正な価格で販売するビジネス。アパレルメーカーや商社、OEM(相手先ブランドによる生産)企業など、様々な業種から参入が活発化している。低価格競争や店舗の出店拡大競争とは一線を画し、大量の在庫を持たないビジネスモデルとしても注目されている。新しいブランドの形のため、企業により独自の指標や運営をしているのも興味深い。

三菱商事ファッション「ナギエ」

企業姿勢と新ビジネスを提示

 三菱商事ファッションが今春立ち上げた、在庫問題解決などの環境配慮型のDtoCブランド「NAGIE」(ナギエ)が好調だ。同社はナギエを通じて、サステイナブルに対する理念や定性的な企業姿勢を市場に示すとともに、新しいビジネスモデルを提示する。

 ナギエのコンセプトは、①過剰な生産を避け、小ロット短サイクルで製品を生み出す「限定受注生産」②製品作りから梱包(こんぽう)、不要になった製品の回収などに至るまで資源の循環を目指す「リサイクルシステム」③有力ブランドのOEMで培った経験を生かした「グッドフォーマインド」。

 限定受注生産では、製品在庫を原則持たない小ロット短サイクル対応で余剰生産を抑える。現在、メンズとレディスそれぞれ20型ずつのアイテムを、受注から納品まで3~6週間のリードタイムで応える。「今後さらにデジタル化による効率化を促進して、納品までのリードタイムを短縮する」考えだ。

 ナギエは「コロナ禍以降に広がるオンオフをミックスするスタイリング」に対応。人気商品はオリジナル素材の再生ポリエステル・ポリウレタン複合のスリムジョガーパンツ(税込み1万4300円)や同素材によるレディス向けフロントスリットパンツ(1万6500円)。Tシャツも好調で、リサイクルコットンによる厚手天じく・半袖Tシャツ(1万800円)、ポリエステル・ポリウレタン複合のアスレTシャツ(8580円)は「女性がオーバーサイズで着用するなど、ユニセックスで市場を広げている」。

 ビジネス向けでは再生ポリエステル・ポリウレタン複合のジャケットが人気。利便性の高いサイドジップポケットや、着心地の良いシームテープ(縫い目に貼っているテープ)使いの仕立ての良さにもこだわっている。メンズジャケット(2万7500円)、レディスダブルブレストジャケット(2万6400円)も揃える。「今後はよりサステイナブルを意識したモノマテリアルによる商品開発を行う」方針だ。

 主力客は20~40代の環境問題に対して高い意識を持つ層だが、「最近ではZ世代でナギエに対する支持が広がっている」。今年3月には東京・原宿に期間限定店を設け、ファン拡大を図った。今後もインスタグラムや動画コンテンツのほか、ブランドのコンセプトに共感するインフルエンサーなどによるSNSを通じた発信を強化するとともに、期間限定店の出店も予定し、リアルなタッチポイントを設定し、新規客による購買率向上を図る。

 ナギエで使用する開発素材や生産背景の横展開を生かした新規のOEM・ODM(相手先ブランドによる設計・生産)も広がり、このビジネスモデルを活用したBtoB(企業間取引)による事業規模の拡大も進んでいる。

オンオフをミックスするスタイリングが人気

TSIホールディングスのハイブス

インフルエンサーの世界を顧客と共有

 TSIホールディングスでDtoCブランドを運営するハイブス。ファッションインフルエンサーのJUNNAさんをクリエイティブディレクターに起用し、「物質的な豊かさではなく、ココロが豊かになるようなきっかけづくりを提案する」ライフスタイル型ファッションブランド「エトレトウキョウ」を軸に、今秋冬からはMAIさんがディレクターを務める「メクル」も加わる。SNSをはじめ新しいデジタルメディアを活用したコミュニケーションで、価値を共有する顧客にアプローチしている。

 ハイブスの売り上げの7割は自社EC。ブランドの世界を確立し、高い消化率を上げている。昨年の秋冬物は97%消化し、うち8割以上をプロパーで販売した。発注量を増やして単価を下げるのではなく、単価が上がっても発注量を適正にすることで消化率を高める。

 商品投入は52週と一般的なブランドと同じだが、店舗軸のブランドと異なり、「『店頭で様子を見よう』がないので緻密(ちみつ)なMDを組み」、極力残らないようにする。インスタグラムは毎日更新し、その反応に対するチェックも欠かさない。

 DtoCブランドはQR・短納期のタイプと、ある程度作り込むタイプとある中で、エトレトウキョウは後者にあたる。通常のアパレルと同様に発注から納品まで時間をかけて安価なブランドと差別化。新商品の投入に合わせてインスタライブを実施し、ECで引き付けた上で、買いそびれた人はリアルの店頭に流れるような仕組みを作っている。

 インスタライブのコメントの内容は全てチェックし、社内でも共有する。ライブ中の質問も可能な限り回答し、カスタマーサービスとも連携しながらきめ細かく対応する。新作の先行受注会も実施し、その時点の反応や予約数を需要予測にも活用し、高い消化率につながっている。今春夏も90%台の消化を見込む。「発売から1~2週間が勝負」で、目標の消化率を下回るとブランド価値を下げないようサードパーティーに流すなど自社ECと使い分ける。

 ハイブスは今年2月、「エシカル・ファッション・カンパニー」を企業理念として掲げた。21年春夏は下げ札をFSC(森林管理協議会)認証用紙に切り替えたほか環境に配慮した資材の活用など「できることから」着手し、将来的には全てが循環する仕組み作りも検討している。物作りでは3Dを活用したサンプルやパターン作りなどにも着手した。

 時代の変化に対する感度の高いディレクターの存在もあり、産休や育児時短、復帰後の働き方の選択肢の提供、LGBT(性的少数者)などに対応する環境整備や副業解禁など多様な価値観や働き方を認める制度も設け、企業全体として多様性やサステイナビリティーに貢献していく。

「エトレトウキョウ」の21年秋冬物

オンワードデジタルラボ

社会課題を解決するブランド

 オンワードホールディングスのオンワードデジタルラボは今春、社会課題に取り組むDtoCブランドの販売サイト「オンワード・デザイン・ダイバーシティ」を立ち上げ、今春から二つのブランドの販売を開始している。オンワード・デザイン・ダイバーシティを通じて、従来とは発想の異なる新しいビジネスモデルの確立を目指す。

 「不特定多数の人に売らなくていい。コンセプトに共感してくれる人と向き合うDtoCブランドの特性を生かして」今春に立ち上げた2ブランド。従来のような販路や性別を特定したり、ファッションデザイナーと提携したブランドではなく、消費者の変化や社会ニーズに沿ったテーマで開発する。

 3月に発売したのが〝流行に乗れない服〟を提起し、使い捨てない服を目指す「オンワード・ディー・ディー」。ニューヨークを拠点とするデザイナーでサステイナブルへの意識が高いサヤカ・トキモト・デイヴィスが手掛ける。続いて4月には、ジェンダーフリーの「イーコール」を立ち上げた。「誰かが決めた〝らしさ〟を脱ぐ服」として、ジェンダーバイアスにとらわれずに自分らしさを見つけることをファッションの側面から応援する。今後も、一つの社会課題に対して一つのブランドを提案する。

 オンワード・デザイン・ダイバーシティでは、消費者の動向やコミュニケーションのプロとして、ニュースの梅田哲矢さんを始め外部人材がブランド作りに関わる。ミレニアル世代以下に向けて発信するため、外部も内部も全て35歳以下でチームを作ったのも特徴的だ。

 物作りでは、「来年も再来年も3年先も着たいと思えるか」を徹底する。従来のような春夏、秋冬というシーズンの区切りではなく、シーズン問わず長く売れることも重視。消化率に対する基準も従来とは変更し、シーズンごとの結果の追求はせずに、「2年のうちに9割以上」を売り切るという指標を設けた。

 課題は認知度の向上だ。オンワード・クローゼットストアのほか、キュレーションメディア型店舗での期間限定店など、社会課題へ関心の高い若い層とリアルで出合える機会も作っていく。

 また、オンワード・デザイン・ダイバーシティをプラットフォームに、他社との協業やグループ内での協業なども視野に入れる。ECのプラットフォームとしてだけでなく、企画・生産・EC販売をトータルで提供するサービスも視野に入れている。

 オンワードデジタルラボは需要予測やAI(人工知能)などデジタル技術を率先して導入し、デジタル化への推進役も担う。成功事例が出れば、既存ブランドにもフィードバックし、グループ全体に好影響を与えようとしている。

ジェンダーバイアスにとらわれない服を提案する「イーコール」

(繊研新聞本紙21年6月16日付)

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