【ファッションとサステイナビリティー】循環型社会へ業界団体の設立相次ぐ 事業者が連携し課題解決に踏み出す

2021/11/26 05:30 更新


 SDGs(持続可能な開発目標)やサステイナビリティー(持続可能性)を意識した経営があらゆる業種で不可欠となる中、繊維・アパレル・ファッション業界でも地球環境に配慮した事業運営は避けて通れなくなっている。とくに衣料品の大量生産・大量廃棄などの問題を解決するために業界団体の設立が相次いでいる。

天然繊維の循環目指す

 今月中旬に設立総会を開いた「天然繊維循環国際協会」(NICO)は「天然素材を循環させ持続可能な循環型社会をつくろう」という理念の下、課題となっていた回収の仕組みを作るため繊維・ファッション業界の事業者と自治体が連携することで、天然繊維をスムーズに分別・回収し、土に返す緑化活動が核となる。将来的にライフサイクルアセスメント(LCA)の国際認証機関を目指し、活動をスタートした。

 設立総会では、様々な業界団体のトップを歴任する八木原保理事長をはじめ、若林康雄(オーロラ社長)副理事長、三宅正彦(TSIホールディングス名誉顧問)のほか、経営者や大学教授など十数人の理事らがあいさつした。来賓に経済産業省生活製品課の永澤剛課長、渋谷区の長谷部健区長も祝辞を述べた。八木原理事長は「ファッション業界は世界第2位の環境汚染産業と言われている。その理由は、素材の栽培時に使用される農薬、生産時の温室効果ガスの排出など様々ある。一方、家庭から手放される衣料品の量は75万トンあり、そのうち50万トンがゴミとして廃棄されている。衣料品が回収・リサイクルされ、原材料として再供給されれば、二酸化炭素排出量も削減できるはず。こうした背景を理解し、天然繊維を循環させる活動を進めたい」と強調した。

天然繊維循環国際協会の設立総会であいさつする八木原理事長

 天然繊維の循環にフォーカスしたのが同協会。「衣服も食品も生活の全てで使われるものが“どこから生まれて”“どうやって作られ”“使った後にどこへ行くのか”を知る責任がある」との強い思いがある。①環境配慮された持続可能な農業による天然繊維の生産を支援する②パイナップルの葉やバナナの茎など、非可食部分から得られる天然繊維の利用を促進する③不要となった衣服や繊維製品を天然繊維と化学繊維に分けて分別・回収し、天然繊維を土に返していく取り組みを推進する④原料生産から消費後までの在り方を消費者に伝える仕組みを作る⑤天然繊維を土から土へ循環させることで、ファッション業界をポジティブに変えていく――この五つの基本方針のもとに活動していく。

 活動のステップとしては、11月18日に東京で設立総会を開いた後、来年4月まで協力自治体と事業者を募りつつ、東京、沖縄、京都などで実証実験をスタート。その後、本格始動し地域を拡大する。次に協会マークと共に数値化したLCA表示を始める。最終的には国際連携マークとして展開。アジアの主な原材料生産地の有機農業などを支援するのが目標だ。

 現状の生地回収は、市町村で天然繊維と化学繊維とを一緒に回収している状態だが、同協会と自治体とで連携し天然繊維の分別・回収の仕組みを作っていく。そのための呼びかけと連携が中心的な活動となる。こうして天然繊維のリサイクルフェルトを使ったプランターで街の壁面緑化をはじめ、農業資材や自動車内装材としても有効活用する。スタートの活動では①渋谷区内の原宿商店街での分別・回収を実施②学校での教育の一環として未来の消費者意識を育てる③グリーンファッションの街を目指し全域で住民による分別・回収に進む。同様の流れで、沖縄県のやんばる3村でもスタートする。

産地の中小企業が参加

 「サステナブルテキスタイルジャパン」(STジャパン)は今回の展示会が初の活動となった。全国10以上の産地から、非衣料向けが主力の工場を含め、織り・編みや染色など約70社の中小企業が参加する。代表の稲垣貢哉氏は「中小製造業各社が発展・持続していくために、強みを持ち合い、日本の物作りを俯瞰(ふかん)してまとめあげる。国際認証やリサイクルについてなど川下のニーズの受け皿となることを目指す。繊維産業の物作りの現場を元気にしたい」と意気込む。

 年内に、参加企業同士の情報交換や、稲垣氏によるサステイナブルをテーマとした勉強会を実施する。将来的には、参加企業同士がアイデアや技術を持ち寄り新たな商品開発に取り組むことを目指す。試作として、カジグループ(金沢市)のC反をアップサイクルする「U反」と熊谷(名古屋)の有松絞りを組み合わせたドレスやバッグなど小物を展示した。

STジャパンの試作品(カジグループの「U反」×熊谷の有松絞り試作品)

 SDGsや循環型社会を実現するためには一企業単独の活動では限界がある。多くの事業者や自治体が連携・協力して大きな流れを作るために、自分たちのできるところから着手すべきだ。同時に、生活者の意識改革を促す地道な活動も不可欠だろう。

(繊研新聞本紙21年11月26日付)

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