【ファッションとサステイナビリティー】西村あさひ法律事務所 弁護士 渡邉純子さん 日本企業もESG対応が急務

2024/10/31 05:29 更新


西村あさひ法律事務所 弁護士 渡邉純子さん

 西村あさひ法律事務所の渡邉純子弁護士は、国際人権法や国際労働法が専門で、人権・環境といった観点から企業のサステイナビリティー対応を支援する。日本繊維産業連盟(繊産連)が22年に策定した「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」にILO(国際労働機関)コンサルタント(当時)として関わり、経済産業省繊維産業小委員会の委員も務めた。今、先進国だけでなく「中南米や東南アジアでも急速にESG(環境・社会・ガバナンス)対応が進んでおり、日本企業も対応が急務」と話す。

 企業がサプライチェーンを通じて人権を尊重しなければいけないという主張は70年代ごろから言われてきました。企業が国境を越えて活動する際に脆弱(ぜいじゃく)な国や立場の人を搾取することが問題視されて議論が始まりましたが、クロスボーダーの取引に限定した話ではなく、規模の大小にかかわらずどんな企業も人権尊重の責任が前提としてあります。

 これは建前論としてだけでなく、企業にとってもやるメリット、やらないデメリットがあることもポイントです。メリットとしては、優秀な人材を確保するため、特に人手不足で外国人雇用にも頼っているような業界では人を大切にする経営が大事。自社の従業員だけでなく、一緒に物作りをやってくれるサプライチェーン上のビジネスパートナーも含めて人権を尊重することで強い企業になれる。

 人を大事にすることと収益性の関係性を指摘される投資家も多くなっており、才能のある人が来てくれる会社は収益につながるということもありますし、逆にすぐ離職するような職場は特に中小では1人やめただけでもダメージが大きい。

 デメリットとしては海外の規制に関係していない企業でも、レピュテーションリスク、つまりSNSなどに書き込まれるとすぐに広まってしまうといったことがあります。

 国内市場で完結しているアパレル企業でも、人権を無視した経営はできなくなっています。国内の中小企業でも生き残っていけるところはグローバルな企業に販売していて、人権の尊重がビジネス上も不可欠です。またサプライチェーンの下流に位置する大手企業だけが表面的に取り組むだけでは意味がなく、上流の中小企業や海外のサプライチェーンを見ていく必要があります。

 例えばサプライチェーンの委託先の従業員が社長に苦情を言いたいと思っても直接言えないといったケースがあるでしょう。その場合、取引先がサプライチェーンで働く人の声を直接聞けるような仕組みを構築できるといいと思います。

 世界的に見ると先進国から波及し、中南米や東南アジアといったグローバルサウスの国々で人権デューデリジェンスなど欧米の規制にどう対応するかが話題になっています。一方的にサプライヤーに責任を押し付けるようなネガティブな影響もあるのですが、アジアで人権を広めていくツールとして規制を生かしていくことが現地でも論じられています。

 日本はこうした流れに取り残されてしまう懸念もありますが、まずは企業行動ガイドラインを手に取ってもらい、これに対応していくことがポジティブな意味を持つことを理解していただきたいと思います。

ファッションとサステイナビリティートップへ

(繊研新聞本紙24年10月31日付)

関連キーワードサステイナブル



この記事に関連する記事