気候変動の解決や環境負荷の低いアパレル生産には、素材分野での技術革新が欠かせない。パタゴニアで素材開発を担うマット・ドワイヤー氏に、注目されている「リジェネラティブ・オーガニック・サーティファイド・コットン」(ROコットン)の取り組みなどを聞いた。
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パタゴニア製品で使う素材の約25%をコットンが占め、その半分がリサイクルコットン、残りの大半がオーガニックコットン(OC)を使っています。OCのうちコットン・イン・コンバージョン(移行中のコットン)とROコットンが、それぞれ全体の5~10%を占めています。
ROコットンは、農家がフェアトレード・サーティファイド(認証)によるプレミアム(賞与)を得ることができるうえ、コットン以外の作物も栽培できるため、収入が増えるのが利点です。インドではコットン、マリーゴールド、唐辛子、ウコンを同じ農地で栽培しています。
ROコットンの本格普及に向けた我々の試験プロジェクトは7年目に突入し、現在3000以上の農家が参画しています。いずれもインドで一般的な家族経営の小規模農家で、一軒当たりの耕作面積は1~1.5エーカー程度になります。
サプライヤーや第三者機関が管理する「農家ネットワーク」を通じ、農家への教育・研修や履歴管理などをしています。もちろん、農薬や化学肥料の利用などルールに従わなければ認証しません。ROコットンのプロジェクトに農家が参画することで、土壌汚染が解消し、労働者の健康や収入を保証するような仕組みになっています。
(環境負荷の低い)素材を新たに開発する場合、我々の果たすべき役割は規模を広げることではなく、先頭に立って難題に挑戦することです。当然、時間と手間とお金がかかる仕事ですから、長期的な視野に立って取り組む必要があります。例えば、廃漁網をリサイクルしたナイロンの実用化には5~7年、PFAS(有機フッ素化合物)を排除した生地開発についてサプライヤーを説得するには7年かかりました。
「パタゴニアは難易度の高いことを要求する」と、素材供給業者の間ではよく知られています。しかし、我々が要求したことは他のブランドもいずれ求めるようになります。さらに、我々と取引しているという実績があれば、「このサプライヤーはパタゴニアの厳しい基準を満たす仕事をしている」と知られ、取引先の開拓が容易になります。つまり、我々との取り組みは、難易度は高いけれども、(それを実現できれば)最終的にはサプライヤーの付加価値を高めるものとなるのです。
(繊研新聞本紙24年7月30日付)