スパイバーは、人工たんぱく質素材「ブリュード・プロテイン」(BP)の事業化へ大きく前進している。タイのBP発酵プラントの量産を開始したのと並行し、国内外の紡績やテキスタイルメーカーとのサプライチェーンを強化。アパレルでの量産品の販売も始まった。同社は、BPの資源として最大限活用を目指し、技術確立や製品設計ガイドライン作成、インフラ構築を進めている。
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スパイバーは、山形県鶴岡市でバイオベンチャーとして07年に創業しました。現在社員数は約300人。鶴岡市とタイにBP工場を設立しており、今後は米国でのプラント設立を目指しています。
資金調達も順調で、ゴールドウインから出資を受けてアパレル製品向けの素材開発にフォーカスし、豊島からの出資を受けて量産化を図ってきました。23年9月には、ゴールドウインと共同開発したアパレル製品の販売をスタートするなどして、日本の消費者に店頭で購買して頂けるようになりました。
ブリュードは〝醸造〟という意味であり、BPはビールを作るのと似ています。ビールの製造方法は、タンクのなかに酵母菌がいて、そこに砂糖を入れるとアルコールが発生する。当社の場合は、タンクのなかに、自社で独自にデザインした微生物がいて、栄養素を入れるとたんぱく質の粉が発生する。この粉を用いて様々な素材を製造することができます。
タイ工場では、現地に広大なサトウキビ畑にがあり、そのサトウキビを原料にした砂糖を投入して、大量のたんぱく質を生産しています。微生物を遺伝子からデザインするところが当社のバイオベンチャーたるゆえん。当社は、サイエンスとテクノロジーの掛け算を行っているのです。
量産化に向けてあらゆる研究開発を進めており、人類社会に広げることが可能なコストメリットを追求しています。タイ工場では年間500トン程度の生産が可能となり、商業化に向けてめどが立ったところです。しかし、これは人類が使用する他素材の生産量と比較して、いまだ大したものではありません。
たんぱく質という原料の転用に力を注ぐ最大の理由は、環境配慮型素材として非常に優れているからです。温室効果ガス(GHG)をカシミヤとBPで比較すると、BPを使用することで75%削減することができます。土地の使用は99%削減、水の使用も97%削減できます。生分解性については、海中では30日で約75%分解。土中では6カ月でほぼ無くなってしまう。
今年1月には、当社が提唱する資源循環システム「バイオスフィア・サーキュレーション(生物圏循環)プロジェクト」に仏ケリング、蘭ダイスターが参画することになりました。23年から参画するゴールドウイン、米パンガイアに続くもので、スパイバーの微生物発酵技術を使い、繊維製品や農業廃棄物の循環を目指すものです。
このような取り組みを通じて、今後も積極的にたんぱく質という原料から人類社会をアップデートしていきたいと考えています。
(繊研新聞本紙24年1月30日付)