【ファッションとサステイナビリティー】造形構想社長 峯村昇吾さん 生活者と共に製品寿命を延ばす

2024/04/25 05:29 更新


峯村昇吾さん

 DtoC(メーカー直販)ブランド「ファブリック・トーキョー」出身。代表を務める造形構想(東京)で、「ヒューマテリアル」というプロジェクトを始めた。人間と素材を合わせた造語の通り、人間がいかに長く商品と付き合うかがテーマ。生活者の消費態度の変容を促し、その先の企業を動かしていこうという草の根運動だ。本社を置く東京・世田谷区から始める。

 20年に武蔵野美術大学の大学院に入学し、アパレル産業のサーキュラリティーを研究しました。大量に生産し海外から輸入、消費者の手に渡り、回収され、一部は海外へまた輸出される。蛇口に例えると全開状態で、少しでも閉めないと衣料廃棄問題の根本的な解決にはつながらないと感じました。そこで気付いたのが、購入した商品を長く利用する価値観です。

 商品流通の工程は一般に、生産、販売(購入)、利用、回収(廃棄・譲渡)です。企業はゴールである「販売」までは一生懸命。「回収」にも力を入れている。しかし、「利用」に関してはほったらかしになっているのではないか。消費者は購入してから商品との付き合いが始まるのにもかかわらず、です。

 「回収」も割引クーポンでの新しい製品の販売ですから、蛇口は開いたまま。メーカーの取る環境配慮のアクションはマーケティングの道具になりがちだし、アパレル産業はそもそも新しい物を売り続ける構造で成り立つ。だから、「利用」に対し手厚いUX(ユーザー体験)を提供する動機付けが働きません。そこで独立した立場の我々がやる必要があると考えました。

 自分も物を作り売っていましたが、今回のプロジェクトでは作りません。手掛けるのは生活者が商品を長く使うためのサービス。リペアやリサイズ、染め直し、ケア方法などの提供です。

 もっとも、消費者の態度を変容させることは簡単ではありません。生活者の倫理観に委ねていては進まないので、体験を付与する事でかなえたい。アートやデザイン、カルチャー、編集力で、「長く使うのがかっこいい」という文化を醸成したいと考えています。ボードメンバーに旧知の元オールユアーズの木村まさしの他、編集やデザインなどの専門家でチームを組成したのはそのためです。

 当面は生活者への啓発活動を進めながら、どこかのタイミングで法人向けにサービスを接続させたい。具体的には、製品寿命を長くした場合、その証しとしてのプリント「ヒューマンフットプリント」を製品に施したり、製造トレーサビリティー(履歴管理)やケア方法など製品の個体情報が詰まったカードの提供などです。

 利用のUX改善は従来のビジネスと矛盾せず、ブランドのLTV(顧客生涯価値)向上に資するものですから、企業と取り組んでいけたらいいですね。

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(繊研新聞本紙24年4月25日付)

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