【ファッションとサステイナビリティー】WWFジャパン、JSCI共催セミナー「繊維産業に求められるサステナビリティとは」開催

2023/05/31 05:30 更新


パネルディスカッションでは、先進的な取り組みや施策を推進するなかでの課題が出された

 WWF(世界自然保護基金)ジャパンとJSCI(日本サステナブル・コットン・イニシアチブ)は、共催セミナー「繊維産業に求められるサステナビリティとは~水リスクとコットンについて考える~」を5月10日の「コットンの日」に開催した。都内のセミナー会場には定員の約30人が参加。オンラインによる視聴者も320人を超え、サステイナブル(持続可能な)への取り組みに対する関心の高さがうかがえた。

 同セミナーでは現代における「水リスク」に関する課題として、物理リスク(渇水、水質汚染、洪水など)、規制リスク(条例などによる各種規制)、評判リスク(文化および生物多様性の重要性、風評被害など)が指摘された。その後、「繊維産業の環境取り組み」と題したパネルディスカッションでは、各パネリストから先進的な取り組みや、施策を推進するなかでの課題、サステイナブル社会に向けた今後の展望などが率直に語られた。

WWFジャパン自然保護室淡水グループコットン・テキスタイル担当小林俊介氏が、「水リスク」の課題を解説した

 パネルディスカッションの登壇者は、H&Mジャパンサステイナビリティ・コーディネーターの山浦誉史氏、丸三産業開発本部本部長の藤本透氏、スタイレム瀧定大阪環境品質管理室室長の森田芳弘氏、日本サステナブル・ラベル協会代表理事の山口真奈美氏、WWFジャパン自然保護室淡水グループコットン・テキスタイル担当の小林俊介氏。司会進行は、テキスタイルエクスチェンジ・アジア地区アンバサダーの稲垣貢哉氏。

認証が橋渡しに

 稲垣 グローバルアパレル企業のH&Mは、どのような考えで、サステイナブルに向けた取り組みを行っているのか。

 山浦 コットンをはじめとする天然資源に我々は依存せざるを得ない分、自然へのアプロ―チは欠かせない。大手企業として業界をリードしていくことがモチベーションとなっている。当社はファッションリテール企業なので、お客様とのコミュニケーションが密接だ。認証ラベルがあるとコミュニケーション上でも大きいメリットがある。企業、政府、消費者がおのおので取り組んでいるだけでは持続可能な社会は実現しない。コミュニケーションのきっかけとなる認証ラベルがその橋渡しになる。

 稲垣 他の産業と比べて繊維産業の認証制度の活用はどの様な状況か。

 山口 繊維産業は50年までに全ての原材料をサステイナブルものにすることを目指している。認証制度はそれを達成するためのツールだ。グローバル市場対応に向けた危機感を持っている企業は多く、認証の需要は高まっている。

 稲垣 WWFはどう見ているか。

 小林 認証というツールの必要性が高まっている。水リスクへの取り組みに関しては繊維産業以外にもある。例えば、ドイツの「エデカ」というスーパーマーケットでは、水リスクを低減するための施策を実施しておりWWFとパートナーシップを結んでいる。エデカの店頭に並ぶ商品の水リスクを、サプライチェーン全体にわたって分析して、その軽減に努めている。〝水〟への取り組みはまだまだ始まったばかりなので、グローバルでも実験段階だ。ぜひとも我々WWFと一緒に考えてほしい。いろんな企業と取り組む、クロスセクターでの実現のために勉強会を企画しているので、こちらも是非参加してほしい。

多様なつながり生む

 稲垣 認証・サステイナブル事業に取り組むことの企業としてのメリットやデメリットは。

 森田 国内のビジネス目線において、正直メリットはほぼ無い。社員や従業員が現状を把握するための勉強の時間や労力、費用もかかるので、理解を得づらいのが現状。しかし、それは当たり前にやらなくてはならないことだと思う。それを今までしなかったからこそ現在のような状況が生まれてしまった。そこを改めて考え直す機会になった。これからの部分が大きいと思う。今後、企業同士が同じ方向を向けば多様なつながりが生まれる。これは大きなメリットと言える。 

 藤本 当社は化粧綿や医療用脱脂綿、繊維関連の不織布などを製造・販売している。サステイナブルに関する国際認証を取得することで、海外企業の引き合いが増えてきた。特にヨーロッパで拡大している。これは企業としては「販売できる」というメリットだが、それ以上に企業名が広く認知されている。諸外国から声をかけられることが増えた。

 山口 ビジネスにおいて明確なエビデンスを提出することが求められる海外に比べ、日本は人と人とのつながりを重んじるため、あいまいで不透明な部分がある。差別化のためには見える化を進めなくてはならない。そのためにはむしろ日本人ならではのコミュニケーションが活きてくるのではないかと思う。社内の体制見直し、従業員の教育といった点でも認証を得るというのはメリットであるとの声もある。

 稲垣 様々なセクターの人が一堂に会し質問に答えてくれた。SDGs(持続可能な開発目標)の17項目目である〝パートナーシップ〟を組んでいけるように今回のセミナーが役立てばいい。水やコットンに関して、今回は基礎編という部分だ。今後もこの様な催しを続けていきたい。学生たちの関心も高まっている。我々大人も頑張らなくてはならない。

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(繊研新聞本紙23年5月31日付)

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