【販売最前線】増収続くゴールドウイン「ザ・ノース・フェイス」
“本物”で街着ニーズ取り込む
ゴールドウインが国内で商標権を持つ「ザ・ノース・フェイス」の成長速度が増している。アウトドアブランドでありながら街着として使える汎用性の高さと、感性に響く独自の店作りで、多くの消費者を魅了している。(杉江潤平)
感動体験を提供する
「日常的にアウトドアを取り入れる消費者にブランドがうまくフィットしている」。渡辺貴生ゴールドウイン取締役専務執行役員は、ザ・ノース・フェイスの好調ぶりをこう指摘する。事実、ザ・ノース・フェイスを核とする同社アウトドアスタイル事業の15年3月期売上高は、御嶽山噴火や天候不順などでアウトドア市場全体が伸び悩んだ年だったにもかかわらず、前期比12・6%増の305億400万円を達成。その増収を支えているのが、売り上げ構成の約半分を占める、直営店などの“自主管理型”売り場だ。
ザ・ノース・フェイスの店作りは独特。都市圏でアウトドアスタイルを楽しむ「スタンダード」業態や、女性向けの「マーチ」業態、原宿のキッズ専門店にリゾート地・ニセコでの通年営業店、男性向け専門店、キャンプがテーマの国内最大店…。いずれも同社が近年開店したザ・ノース・フェイスのショップで、それぞれに店の趣きが異なる。
直営店舗数が57(前期末)にも広がれば、チェーンオペレーションによる規模のメリットを享受できるが、店作りを担う小口大介事業統括本部販売一部店舗運営グループマネージャー兼ディストリビューショングループマネージャーは、「たとえ同じ業態でも同じ形にはしない」と言い切る。「お客様はその店でどんな体験ができるかに価値を見出すようになっており、統一フォーマットの店では劇的な感動体験を提供できない」のがその理由だ。
さらに同社が推し進めるのは、お客の感性、とりわけ5感に響く店作り。例えば嗅覚なら、独自に製造した森林の香りを直営全店で噴霧している。味覚ならニセコや二子玉川、昭島のアウトドアヴィレッジ店でカフェコーナーを設け、マンや二子玉川店では聴覚を刺激するためレコードでBGMを流す。視覚・触覚面では陳列する男女の商品を文字入りのサインではなく什器の質感で区別する。
シンプルを強みに
街着として使える商品の汎用性も、ブランドの競争力につながっている。ブランド売り上げの中心となるカテゴリーは登山・トレッキング用の「マウンテニアリング」だが、ラインナップの7割を消費者は街着兼用として使っている。例えば、今春夏売れている「ゴアテックス」使いのマウンテンレインテックスジャケットは、登山初心者向けに初期投資を抑えられるよう市場価格より安い2万6000円で出したが、堅牢度の高さと防水性が受けて、普段着としても購入されるケースが目立った。
こうした現象について、商品企画を担う川田慎二事業統括本部ザ・ノース・フェイス事業部副部長兼アパレルグループマネージャーは「素材の持つ特性や独自の設計技術の良さを生かしていこうとすると余計なものをそぎ落としたシンプルなデザインにならざるを得ず、結果としてタウンウエアとして取り入れやすくなっている」と見る。実際、昭島店の男性客(33)も、「以前から知るブランドだが、最近よく買うようになった。30代になり大人が買える落ち着いたデザインがカッコ良くておしゃれに思えてきた」と話す。
こうした点に加え、店舗と連動したモノ作りの仕組みも増収に貢献する。シーズン半年前に終わった受注展示会とは別に、店頭情報を反映した商品を必要に応じて開発し、直営店中心に販売する仕組みも持つ。好例は昨年秋冬に出したスエットのセットアップ。展示会後にマーケットで急速にスポーツミックススタイルが台頭したことから、小口氏のチームから商品企画部隊にスエット商品の開発を急きょ依頼し、ヒットにつなげた。
もっとも同社としては街着ニーズが強まっているからと、ブランドの立ち位置をアウトドアからライフスタイル(日常使い)へとずらす考えはない。アウトドア商品の本物を作っていることこそが、すべての優位性につながっていると見ているからだ。前述のスエットも、見た目はコットンライクだが、速乾性に優れたポリエステル素材でできていることが差別化につながっている。
今後はこうした強みを生かしながら、拡大余地の大きい女性や子供客の拡大、直営店スタッフのサービス力アップなどの課題に挑戦していく。
国内最大規模の店舗「ザ・ノース・フェイス昭島
アウトドアヴィレッジ店」-佐藤嘉高店長の話-
当店は、雲取山や高尾山などが間近にある立地の特性から、登山用のギアを強化したフィールドショップという位置付けです。また、外遊びがライフスタイルに溶け込んでいるお客様に対してもアプローチしており、キャンプやバーベキュー、ピクニックなどで使えるアイテムも揃えています。ブランド発祥のカリフォルニア州バークレーにあるアウトドアショップのイメージで、カフェスペースもかなり広くとっています。お客様からは「こんなノースフェイスのお店見たこと無い」と言われることもあります。
ノースフェイスのお客様は「人と違うもの」を求められる方が多いですね。自分なりのオリジナリティを探されている中で、アンテナに引っ掛かって店に来られる印象です。また、品質の高さに信頼を寄せているお客様も少なくありません。