「カシヤマ・ザ・スマートテーラー」成長の生命線は人

2019/04/30 06:30 更新


《販売最前線》「カシヤマ・ザ・スマートテーラー」  デジタル活用、リアル接点を増やし好調

 オーダーメイドスーツの市場拡大が続く中、オンワードパーソナルスタイル(東京、関口猛社長)の「カシヤマ・ザ・スマートテーラー」はデジタル技術の活用とリアルな接点を増やすことで20~30代男性の新規客を獲得し、業績を伸ばしている。

 完全予約制でショールーム形式のガイドショップを首都圏などの利便性の高い立地に続々オープン。さらに出張採寸や企業への身だしなみ講座など新たなタッチポイントの確立に力を入れる。だからこそ、関口社長は「今後の成長には人材育成が生命線になる」と強調する。

(大竹清臣)

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◆好立地で広域から集客

 カシヤマ・ザ・スマートテーラーは前身の「セビロ&コー」を業態刷新し、17年10月にスタート。現在、直営店14店、ガイドショップ20店。旧直営店は半径2キロ以内の地元客を狙った都内の住宅地を背景とした駅前立地が中心だったが、刷新後の出店戦略では大都市圏のビジネス街や主要ターミナル駅近くの好立地で広域からの集客を狙う。

 特にガイドショップは完全予約制で、予約のある日時のみ運営し、基本的にスタッフが常駐しない。顧客にとって自宅以外のプライベート空間を目指した新しいスタイルのリアルなタッチポイントだ。仕事帰りや休憩中、大学の授業の合間など利用者の都合に合わせた採寸を可能にした。

仕事帰りや休憩中にも立ち寄れる好立地にある完全予約制ガイドショップ

 最近では若い起業家などが集まるシェアオフィスへの出店も強化している。直営店も出張族が多い羽田空港内の敷居のないオープンな環境に開設した。コンセプトは「通過する場所から滞在する場所へ」。「コト体験」を提供するショップが並ぶエリアなので、気軽に立ち寄りやすい。

羽田空港内のオープンな環境に開設した新店

 顧客の開拓は店舗で待つだけではない。大手企業を訪問し、業界の専門家による身だしなみ講座を開催している。昨年は全国で約50社を巡回。同講座ではクリニック形式で受講者のビフォー・アフターがビジュアルによって一目で分かるようにアドバイスする。

 例えば、一般のビジネスマンは「大は小を兼ねる」という間違った認識でスーツを着用している人が多い。そこで、着こなしのルールに基づき、ジャケットの袖丈やスラックスの裾をジャストサイズのフィティングに変えるだけで外見が良くなる。具体的な効果を顧客自身が実感できるので、自店への信頼にもつながりやすい。

 同事業では顧客開発部を設立し、熟練フィッターがオフィスや自宅への出張採寸する体制も整えており、利用者が様々なタッチポイントを選択できるのがメリットだ。

企業を訪問して開催するクリニック形式の身だしなみ講座

◆最短で1週間納品が強み

 納品の早さも大きな武器になっている。他のオーダースーツ専門店の大半が生産能力の限られた国内工場を活用しているため、店によっては1~2カ月待ちが当たり前だ。一方、同業態ではオンワードグループ自社工場の受注・準備工程のデジタル化と生産背景の見直し、工場から直接発送を可能にした圧縮パック梱包(こんぽう)「パックランナー」により、最短1週間を実現した。

 スピード納品の効果から就職活動や急な冠婚葬祭などのニーズにも対応できる。2着目以降は採寸なしで手軽にECサイトでの購入が可能なことに加え、3万~5万円とリーズナブルな点もオーダー初心者から受けている。今年の3月には中国・大連で第2工場を本格稼動する予定で、年間でさらに10万着強の増産体制を確保することになる。さらに第3工場も検討中だ。

◆管理職中心に女性増加

 昨年春からレディススーツの扱いもスタートし、40代の管理職を中心に女性客が増加中だ。特に銀座や新宿のガイドショップに予約が集中している。

 男性と比べ、スーツの着こなしのルールがあいまいで、フィット感の好みが繊細なため、オーダーは難しいと言われるが、予約制による対面でのコンサルティング接客が安心感を与え、リピーター化につながっている。これからは主力のスーツに加え、高機能なセットアップ(メンズ・レディス)、レディスのシューズやニットなどカスタマイズ対応するアイテムは広がっていく。

女性客にもコンサルティング販売を徹底

◆売上高40億円見込む

 今期(19年2月期)は50店まで拡大する計画で売上高約40億円、販売着数約5万3000着を見込む。国内だけでなく、米国や中国など海外市場での事業展開を見据える。さらなる成長のためには、生産や販売現場のデジタル化とともに、リアルな接客を支えるフィッターの育成が欠かせないだろう。人材育成を目的とした「樫山大学」の設立も検討している。

リアル店でのフィッターによる採寸は細部までしっかり丁寧

(繊研新聞19年2月7日付)



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