【記者の目】「服を作りたい」非アパレルが急増 多様化するニーズを捉える国内縫製・ニット工場

2021/11/15 06:29 更新


 コロナ禍の厳しい状況にあって、活気づいているアパレル工場がある。稼働を支える一つがDtoC(メーカー直販)を志向する“非アパレル”からの依頼だ。蓄積してきた経験値やノウハウ、小回りの利く生産体制といった物作り企業の強みを生かし、新たなチャンスを呼び込んでいる。

ニッチ市場深堀り

 衣服・ライフスタイル製品生産のプラットフォーム事業を運営するシタテルによると、同社のクラウド生産支援の導入は、今年4月で前年同月比4.4倍の351社に拡大した。アパレル業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)化の流れが背景にあるが、ファッション業界だけではない。非アパレルの利用者も増加しているという。

 「服を作りたい非アパレルはますます増えている」。実感を込めてそう話すのは、東京・武蔵小山にあるサンプル縫製工場のアンジーズ。インスタグラムやホームページを通じ、昨春から週1回は問い合わせが入るようになり、ここ最近は殺到している。

 問い合わせはインスタグラマーやユーチューバーといったインフルエンサーのほか、アパレル専門店経営者、内装業社長、パーソナルジムのオーナー、医者、中学生と様々だが、大半がアパレル未経験者という。現在は10組と企画を進行。プロスケーターの女性2人組が製作しているのは、ゴルフウェアだ。米カリフォルニアで、サーフィンの後にラフな格好でゴルフを楽しむ「サーフ&ターフ」に慣れ親しんできたため、日本のゴルフウェアに堅苦しさを感じたという。ゴルフ場の服装ルールは守りながらも、気負わず着られるカジュアルなゴルフウェアブランドを立ち上げる予定だ。内装業の社長とは、ワークウェアとカジュアルウェアの中間的な商品に取り組んでいる。この数年で選択肢が広がった市場だが、自分の趣味嗜好(しこう)、価値観に合った商品をより深く追い求める傾向が強まっているようだ。

 ニットOEM(相手先ブランドによる生産)とオリジナルブランド「ラッピンノット」を手掛けるウメダニット(新潟県五泉市)は今年、スタイリストの安西こずえ氏のイメージを形にした「コズ・マニュファクチュアード・バイ・ラッピンノット」を発表した。「カシミヤ100%の服が作りたい」という安西氏の要望で、友人から紹介を受けた。SNDでも影響力の高い安西氏を通じ、ラッピンノットの認知度が上がり、販路開拓にもつながったという。

カシミヤ100%の「コズ・マニュファクチュアード・バイ・ラッピンノット」

 各社が声を揃えるのが、売る力と熱量の高さだ。既存アパレルが捉えきれていないニッチ市場を掘り起こし、強力なファンコミュニティーを持つインフルエンサーの販売力はすさまじく、発注枚数が「中堅アパレルを超える」ことも珍しくない。「若い社員には、SNSで興味を持ったブランドに積極的に営業をかけさせている」企業もある。

 縫製工場の辻洋装店(東京)は、“イメージコンサルタント”望月順子氏がデザインする「マグノリアコレクション」(マグノリア)の生産を担っている。今年4月にはワンピースを180着生産し、望月氏が自身のブログを通じて販売したところ即完売した。直後の同年6月後半~7月に前作と丈感が異なるワンピース2型、300着を販売して瞬く間に売り切った。

問われる具体化力

 しかし、非アパレルとの服作りは多大な労力を要する。知識がなく「共通言語がない」からだ。スマートフォンに描いたラフなスケッチからやり取りが始まることもあるという。

 ここで強みになるのが、物作り専門性だ。マグノリアのヒットの要諦は望月氏のファッションセンスと、それを具体的なパターンに落とし込んで製品化する辻洋装店の熟練モデリストの存在と分析する。望月氏が「うっとりするような裾」と表現するイメージをモデリストは“裾のまつり縫いを表に出さない”と解釈して設計する。理想的な胸元のギャザーを表現するためにサンプル作りを繰り返す。縫製技術の知見とノウハウ、理論があってこそできる。

 アンジーズは、ユーチューブで動画を配信。OEMの仕組みや素材の基本、工場に依頼する方法など服作りに必要な知識を解説しており、問い合わせの際は必ず動画を見てもらうようにした。「簡単にオリジナルの服が作れる」プラットフォームの構築も視野に入れる。サンプルから好みのものを選び、着丈やバストなどを自分好みに調整する。サンプル代はパターン修正代込みで、注文は欲しい枚数を記入するという仕組みだ。

 売り手と作り手が直接結びつくDtoCが当たり前になれば、閉鎖的で下請け体質といった従来型の工場は淘汰(とうた)されていくだろう。一方で、磨いてきた専門性と守ってきた生産設備を強みにすれば、新たな活路が開けてくるかもしれない。


橋口侑佳=東京編集部素材担当 

(繊研新聞本紙21年9月27日付)

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