【記者の目】商業施設のオープンイノベーション 服の循環で実証実験

2022/10/10 06:29 更新


 商業施設にオープンイノベーションの取り組みが広がっている。SDGs(持続可能の開発目標)、衣料品の廃棄ロスの問題などに消費者が関心を高めているためだ。モノからコトへというばかりではない新たな機能が求められており、その実現には社内のリソースでは限界があり、スタートアップ企業などと協業する方が早そうだ。

【関連記事】【記者の目】エシカル消費は国産回帰を本物にするか 仏素材見本市に見た変化の兆し

消費者の変化で

 OPAはオーパ高崎の4階に7月23日、「まちのクローゼット」を9月25日までの期間限定で開設した。回収、染め直し、交換の三つの機能を持たせたスペースで、地域に服の循環を打ち出している。実際に染め直しを行う40社を組織したプラットフォーム「ソメテ」を運営するスタートアップ企業のプレイブルー(青野祐治代表)と組んで実現した。

高崎オーパ4階の「まちのクローゼット」

 JR中央線コミュニティデザインは7月1日~9月30日、JR国分寺駅の駅ビル、セレオ国分寺と運営受託している4駅に服の回収ボックスを置いている。「MAWASU STATION」(マワス・ステーション)として回収した服をユニフォームとして再利用、あるいはセラミックパウダーに資源化する取り組みで、「オールユアーズ」のオールユアーズ(原康人代表)と協業した。

セレオ国分寺では入り口に回収ボックスを置いた

 商業施設のディベロッパーに、ニーズに合わせた店揃えを実現する、来店客数を確保するといったもともとの役割にとどまらない機能が求められるようになっている。環境保全への意識を高める消費者や地域に応え、SDGsに見合った在り方を示すことはその一つ。オーパ高崎は北関東でファッションを集積する館として定評があり、セレオ国分寺もアパレルのテナントが充実していることから、注目されるようになった衣料品の廃棄ロスへの対応はディベロッパーにとっても見過ごせないものだ。そして、こうした新たな領域の取り組みを進めるにあたって、スタートアップ企業の活用、オープンイノベーションに踏み出した。

 OPAは21年11月に「アクセラレータープログラム2011」として、同社のオーパ、ビブレ、フォーラスといった都市型施設を生かす新規事業開拓に向けて協業するスタートアップ企業を募集しており、以前から若干の付き合いはあったというが、プレイブルーはこのプログラムで選ばれた企業の一つ。JR中央線で商業施設セレオ、ノノワを運営するJR中央線コミュニティデザインは、JR東日本グループで先端技術の発掘やスタートアップ企業への出資を担うJR東日本スタートアップを活用、オールユアーズとつながった。

各社が枠組み設ける

 スタートアップ企業などとの連携はすでに各社で模索されている。日本ショッピングセンター協会によると、JR東日本スタートアップのほか、15年に三井不動産「31ベンチャーズ」や「東急アライアンスプラットフォーム」がスタートしており、阪急阪神不動産「HHP共創ファンド1号投資事業有限責任組合」「相鉄アクセラレータープログラム」「三菱商事アクセラレーター」「トーブオープンイノベーションプログラム」「三菱地所アクセラレータープログラム」などがあり、OPAの親会社、イオンモールも21年に「イオンモール共創プラグラム」を立ち上げている。

 すでに動いているもので、環境保全の分野だけでなく、AIをはじめとした先端技術を活用するなどの新たな領域のビジネスやサービスの本格化が見込まれている。

 まちのクローゼット、MAWASU STATIONとも服の回収にあたってはクーポンなどのインセンティブを設けなかったが、MAWASU STATIONで「週に1000着が集まる」(齋藤七瀬JR中央線コミュニティデザイン経営戦略本部経営企画部チーフ)など予想を大きく超えている。いずれもきれいに洗われ、ボックスにごみを入れられることもないなど、関心の高さを捉える形になっている。まちのクローゼットは事業者の関心も集め、「地域で新たなつながりができている」(安達有美OPA事業創造部新業態開発チームディレクター)と、コミュニティー形成にもつながりそうだ。

 もちろん、ディベロッパー側がインキュベーションの役割を担うとはいえ、継続的な取り組みとするには収益化は欠かせない。まちのクローゼット、MAWASU STATIONともに今回は期間限定の実証実験。協業先も含めて事業としても検証、今後を探ることにしている。


田村光龍=本社編集部大型店担当

(繊研新聞本紙22年8月29日付)

関連キーワード記者の目サステイナブル



この記事に関連する記事

このカテゴリーでよく読まれている記事