独自の企業哲学のもと、規模の成長を追うよりも、面白いこと、新しいことを創り出すことに重きを置く。
佐々木進社長が就任して15年。「ロペ」「アダム・エ・ロペ」「ロペピクニック」の基幹3ブランドのブラッシュアップを図りつつ、ライフスタイル提案型ショップの先駆けとなった「ビオトープ」や、梨花さんがディレクターを務める「メゾンドリーファー」など、業界内外から注目を集める新しいショップを次々と立ち上げてきた。
同時に、さまざまな社内改革も断行。フリーアドレス制の導入やオープンな環境での経営会議など、クリエーティブに働くための環境を整えてきた。
「時代が求めることに、どう応えていくのか」。アイデアマンの佐々木進社長が先頭に立ちつつ、社員一人ひとりが主体的に考え、枠に捉われない自由な発想で革新を続ける。
"成長を第一に考えると必ずしっぺ返しを食らう”
─企業の成長について一家言ある。
私が社長に就任してから、実は売り上げは大きく変わっていない。小さな波はありつつ、一定規模の売り上げを維持してきた。市場では「成長か死か」と言われ、成長に対する呪縛があるように見えるが、今、成長という概念のパラダイムシフトが起きていると感じている。
商業施設が増える一方で、市場自体は伸びていない状況が続く。そんな中で規模の成長を第一に考えると、必ずしっぺ返しを食らう。国内市場を軸に考えれば、会社のサイズを一定にしながら、中身を濃くして運営した方がいい。成長の考え方をバージョンアップし、質を高めた経営をしていく。
─創造性を重視している。
クリエーションをいかにビジネスにつなげていくかは大きなテーマだ。クリエーティビティーがビジネスの源泉であることを、もっと根付かせたい。フリーアドレス制の導入や会議のあり方など、そのための環境も整えてきた。
クリエーティビティーとは、何もデザインのみに発揮されるものではない。なるべく多くの引き出しを持ち、数字の見方や事業の捉え方も含めて、自分なりの見方を持つことが大切だ。それが、事業の差別化につながる。
"社会に役立たないと意味がない。社会性が付加価値を生む”
─今、なぜ「ソーシャルスタイル」を提唱するのか。
ビジネスの基礎的なことをあらためて考えた結果だ。「業を成していくには意味がないとしょうがないよね」ということ。
例えば、ソニーの井深大もホンダの本田宗一郎も、戦後の日本をどう良くしていくかが出発点だった。社会に役立つというビジョンを持ち、意味のある仕事をしていこうという基礎をあらためて大切にしたい。これからは、それがないと新規事業でも発展性が望めない。付加価値を生むための基本的な考え方だ。
─販売員の育成、モチベーションアップに力を入れている。
アパレルのビジネスにおいて、お客さんと接点を持つ販売員が果たす役割は極めて大きい。当社では、新入社員は全員まず店頭で経験を積んでもらう。入社して3年が勝負だ。最初の3年は仕事観に対して自分なりのスタンダードを作る大事な期間なので、お客さんに近いところで勉強し、ビジネスの基礎を作ってほしい。
今後は販売職のプロフェッショナルを育てていきたいと考えている。例えば、店舗勤務でありながら執行役員という人がいてもいい。
販売で大事なのは、スキルよりも考え方だ。当社では、感動的な接客を行った販売員を表彰する「チャールズ・チャップリン賞」という表彰制度を設けている。マイナスが少なくてプラスも少ないようなそつが無い接客は、印象に残らない。荒削りでマイナスがあっても、ものすごいプラスがあった方が、人は感動する。
─展示会のあり方にも一石を投じている。
「展示会の場って何のためにあるんだろう?」と考え、前回、展示会で事業内容のプレゼンテーションを行った。せっかく多くの人に集まっていただくのだから、新作を発表するだけでなく、各事業の必要性も理解してもらうべきかと。IT(情報技術)企業の新作発表会などを参考にしながら、展示会での発信にも力を入れる。
─ジュンという企業にとって、今はどんな時期か。
57年の歴史があるが、この10~20年は会社を変えていく時期だと考えている。会社をアップデートするタイミングで、トップダウンで推し進めなければいけない部分もあるだろう。
ただ、方向性としてはよりボトムアップを強めたい。ロングタームで考えると、世代交代をしていかないといけない。今いる社員が自由なことをやりつつ、自然に経営体制の新陳代謝を図れるような環境を整えていきたいし、それが私の役割だと考えている。