当連載が始まって以来、地元岡山県をサブジェクトにした記事を書いてきましたが、本稿で初めて瀬戸大橋につながれたお隣の香川県を題材にします。岡山、香川の両県はテレビの電波相互乗り入れによる同一放送地域となっている特殊な地域。例えば、ローカルのニュース番組では両県のトピックが交互に扱われるなど、意識せずとも日頃からお隣の情報を受け取っている間柄です。近年、アートの分野でもプレゼンスを高めている香川県ですが、ローカルのファッションシーンにも見逃せないムーブメントがありました。今回は、香川県で20年からスタートした「LOVE MY NEIGHBORHOOD」(ラブ・マイ・ネイバーフッド)プロジェクトを紹介します。
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売れ続けるメッセージ
同プロジェクトを主宰するのは香川県高松市にあるレディスセレクトショップ「REMIX.store」のオーナー、高岩衣里子さん。きっかけは、コロナ下に開催された地元のマルシェイベントに出店する際に作ったオリジナルTシャツでした。
デザインしたメッセージのラブ・マイ・ネイバーフッドは、高岩さんがインスタグラムのハッシュタグとして愛用していたフレーズ。地元の人たちにもっと郷土愛を表現してほしいという思いを込めて、大人も着られるようなシンプルなデザインに仕上げました。
予想以上の反響で、用意した枚数は即完売。その日のうちに100枚を超えるオーダーを新たに受注することになりました。1日限りで始めた企画でしたが、あまりの人気から現在はアパレルのほかにステッカーやコインケースといった雑貨類など約20種類に。人気のTシャツ類はこれまでに5000枚以上を販売しており、現在も途切れることなく売れ続けています。
衣類は原価などを差し引いた売り上げの一部、雑貨類は全額を自治体に寄付しており、「かがわまんでがん応援寄付」という新しい寄付システムの開設にもつながりました。同プロジェクトのインスタグラムアカウントでは地元の伝統産業や老舗菓子店の職人、市井の人々が着用したシーンの写真とショートインタビューを掲載。地域の景勝地や名産品も紹介しながら、香川の魅力を発信するメディアとしての役割も担っています。
「セレクトショップとしてのプライドからお店のオリジナルアイテムの製作には消極的だったこともあり、あくまでコミュニティーブランドとしての立ち位置で展開しています。若者だけでなく、ご近所にいる年配の方たちも愛用してくださっているのがうれしいですね。私は香川出身ではないので、だからこそわかる地域の良さがある。香川には本当に素敵な方が大勢いらっしゃいます。ファッションの力で人をつなげ、地域を元気にしていくお手伝いができればと思っています」と高岩さん。
郷土愛のトリガー
なぜこれほどたくさんの人たちから長期にわたって支持を得ているのか聞くと、「プロジェクト開始以前はシビックプライドを表現する手段が無かったのではないか」という答えが返ってきました。 高岩さんいわく、香川県人には内に秘めた強い郷土愛があるとのこと。ファッションがそうした人の気持ちを解放するトリガーとなり、連帯感を生みながら地域の活力を高めていく。 ラブ・マイ・ネイバーフッドは、こうした「地方〝装〟生」の好例だと思います。
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