繊維・アパレル業界でサステイナビリティー(持続可能性)への関心が高まるのに伴い、近年キーワードとして浮上してきたのが〝トレーサビリティー(履歴管理)〟や〝トランスペアレンシー(透明性)〟という言葉だ。いずれもこれまでは漠然と語られてきた印象があったが、昨年、一昨年とオーガニックコットンの偽装発覚や新疆綿を巡る懸念の高まり、リサイクル素材の不使用などの事案が発生し、日本の多くの関係者にとって重要性が意識されるようになった。第三者認証の活用が進むほか、素材メーカーや商社自らトレーサビリティーを確保する仕組みも工夫されつつある。また、透明性を担保するためのテクノロジーの進化も重要で、将来的にはブロックチェーン技術の導入が期待される。
【目次】
■綿花 有機栽培人気の裏で課題も
原料から最終製品に仕上がるまで、アパレル製品は多くの企業が関わり、さまざまな工程を経て作られる。この複雑なサプライチェーンを原料段階までたどることは非常に困難なことだ。しかし、世界のアパレル業界でサステイナブルが当たり前になりつつある中、避けては通れない課題となっている。
インドで偽装が発覚
綿花は私たちに最も身近な繊維の一つだが、米国のような先進国から、中国、インド、ブラジル、中央アジアやアフリカ諸国といった新興国・開発途上国まで世界中のあらゆる国・地域で栽培され、複雑なサプライチェーンを経て消費者に届けられる素材の代表格だ。同時に、綿花は栽培に多くの水を消費し、大量の農薬使用も問題になっている。適切に管理されなければその地域の水資源の枯渇にもつながり、また土壌汚染や労働者の健康被害につながることが徐々に認識されるようになってきた。
これに対して近年、農薬や化学肥料を使用しないオーガニックコットンが注目され、サステイナブルの潮流の中でオーガニックコットンを使用するアパレルメーカーが世界的に増している。オーガニックコットンをはじめとするオーガニック原料を使った繊維製品にはいくつかの国際基準があり、これをクリアしたものが認証されているが、20年の秋、主力産地のインドでオーガニックコットンの大規模な不正が発覚したことを国際規格のGOTS(オーガニックテキスタイル世界基準)が公表した。
具体的には、インド政府の農産物・加工食品輸出開発庁(APEDA)が発行するオーガニック原料を証明する取引認証書が偽造されていたというもの。通常の綿花よりも高額なオーガニックコットンが世界的に取り合いになる中、公正であるべき公的機関の管理が行き届いておらず偽装が引き起こされた。GOTSは自ら取引認証書の確認を追加で行うことにし、GOTSのサプライチェーンに入るオーガニック原料の管理を強化している。
この記事は有料会員限定記事です。繊研電子版をご契約いただくと続きを読むことができます。
すべての記事が読み放題の「繊研電子版」
単体プランならご契約当月末まで無料!