《めてみみ》花火の催し

2021/10/13 06:24 更新


 小さな花火大会があった。コロナ禍を反映して、正確には〝大会〟でなく、〝花火の催し〟である。小規模かつ短時間の開催であり、事前告知も最小限。当日もソーシャルディスタンスを掲げたプラカード要員を配するなど、主催者側の配慮がにじむ。

 それでも、開始時間が近づくにつれ三々五々人が集まってきた。隅の方では、シートを敷いた宴会らしきグループも散見されたが、大多数の人たちは、密を防ぎながら静かに天空を見つめている。大玉が上がった時も声は出さず、拍手だけする人が大半だ。涙ぐんでいる人も結構いる。

 無理もない。人との触れ合いが大きく制約されて1年半。花火どころか、描いていた人生の青写真が描けていない人も少なくないはず。中には親しい家族や知人にお別れを言うことがかなわなかった人もいるだろう。「知らず知らずの間に泣けてきた」と隣の若い女性たちがつぶやく。

 記録に残る日本最古の花火興業は京都御所の東にある清浄華院と伝えられている。中国大陸から来た明の人が法事の後の催しとして行ったらしい。江戸時代半ばに始まった隅田川の花火大会も大飢饉(ききん)や疫病で犠牲になった人の慰霊や悪病退散が目的。花火には昔から人々の心に響く何かがあったのだろう。来夏にはゆかた姿の人たちが集い、大きな歓声が上がることを祈りたい。



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