香港の「一国二制度」が揺れている。香港が英国から中国に返還されたのが97年。その時、返還後50年間は資本主義体制と高度な自治、言論や集会の自由などを認める一国二制度が約束された。しかし19、20年の大規模な反政府デモを機に、香港政府ではなく中国政府が香港国家安全維持法(国安法)を施行し、民主化運動を鎮静化した。
香港政府は最近、国安法を補完し、国家の安全を脅かす行為を取り締まる独自の「国家安全条例」案を議会に提出した。
03年にも香港政府は同条例の制定を目指したが、その時は大規模な抗議デモが起こり、実現しなかった。しかし今回は国安法で言論や集会の自由が抑え込まれ、条例を審議する議会も親中派が多数を占め、早期の成立が確実と見られている。
前回香港に出張したのはデモがあった19年夏。若者を中心に多くの市民が参加し、そのすごい熱量に圧倒された。あの時の若者たちは今をどう見ているのだろう。
国家安全条例が制定された際の影響を日系企業に聞くと、国安法と同様に、「事業や生活に大きな影響はないのでは」との見方が大半だ。ある香港企業のトップは、「欧米企業がさらに香港を離れる」と心配する。「欧米人は、ちょっとした一言が犯罪になる可能性を恐れている。大きな刀が頭の上にぶら下がっているような恐怖では」と表現していた。