ロンドン・メンズコレクション会期中に、老舗セレクトショップのブラウンズから東ロンドンにできた新店舗の見学と体験のお誘いをいただき、同僚のマスイユウと一緒に行ってきた。
昨年10月末にオープンした「ブラウンズ・イースト」はクリエイティブなオフィスやショップが集まるレッドチャーチストリートと交差するクラブロウにある。いつでも行けると思うとなかなか行けず、何もコレクション中でなくてもいいのではと思いながらも、だからこそこの機会に、と最終日夕方のショーとショーの間に出向いた。
ブラウンズは大手オンラインファッションモールのファーフェッチが15年に買収。その後、ロンドン中心街のサウスモルトンストリートの実店舗はそのまま継続しながら、順調にECのシェアを増やしている。
買収当時、ファーフェッチのホセ・ネヴェスCEO(最高経営責任者)は「5年後、10年後に人々がどのようにラグジュアリーファッションを購入するのかを考えた時、オンラインだけということは考え難い。実店舗での素晴らしい体験と最新テクノロジーの絶妙な融合が重要になってくる。その進化において、ブラウンズはこの上ないパートナーである」と語っていた。
そのブラウンズの新店舗は、まさにその言葉を実証する試みが盛り込まれている。2フロアの店内はそれほど広くはないが、リラックスした空間に厳選されたブランド品が置かれている。小さなカフェスペースもあり、階段まわりでは、ブラウンズとしては初めてというアート作品も販売している。
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そして2階の奥には、厚い扉で閉ざされた小さな部屋がある。BeBoxというメディテーションルームである。
瞑想。つまり、ストレスの多い都会生活の中、20分間外界の音や色から遮断されて心身の静寂を取り戻す部屋である。リラクゼーションルームのようなものといえばいいのだろうか。
上着と靴を脱ぎ、柔らかいラグの上に直接座るも、そこに置かれたスツールに座るもよし。正面には、デザインスタジオ「ベースド・アポン」による洞窟の壁面のようなモノクロのアート作品が壁一面にかけられ、そこに呼吸するかのようにゆっくりと光が差し込む。
ボワ〜ンと響く男性の声に従って息を吸ったり、吐いたり。目はあけても閉めてもよし。
コレクション取材の最終日とあって寝不足ということもあり、半分寝てしまいそうになる。暗い部屋でじっとしてるのなら夜ベットで寝るのとどこか違うのだろうなどと、お叱りを受けそうなことも考えながらじっとしていると、あっという間に20分が経ち終了。
案内をしてくれたエリオットさんが扉を開けて入ってきて、「どうでした? リラックスできましたか?」と一言。うーんなんだかよくわからないけれど、「ええ」と答える。マスイユウも、一緒に部屋で瞑想をしたブラウンズのスタッフもどうやら同じ心境だった模様だ。
BeBoxは、20年間瞑想などその道に精通してきたクリス・コナーズさんが、アート、テクノロジー、サイエンス、ウェルネスの専門家と組んで完成させた最新プロジェクト。このブラウンズ・イーストにあるものが最初のもので、今年2月までの期間限定でセッションを行っている。
予約制で1セッション15ポンドだが、それは子供達の精神衛生をサポートするチャリティー、「マインドフルネス・イン・スクール・プロジェクト(MiSP)に寄付されるそうだ。
「自宅やオフィス、あるいは病院などにBeBoxを設置して、手軽に瞑想する機会を作って欲しい」とエリオットさん。ちなみに、このブラウンズ・イーストの建物は以前、音響機材の会社が入っていて、防音設備が整った部屋があったのでそのままBeBoxを設置することができたそうだ。
果たして、その効果は・・・
終わってすぐに再び、人と色が溢れる大音響のショー会場に戻ってしまってはせっかくの瞑想も台無し。やはり、そのまま自宅に帰ってお風呂にゆっくり浸かって寝たいものである。
しかし、効果は予想以上にあった。
なにせリラックスしすぎて、ショー会場にiPhoneを置き忘れて退場してしまい、すったもんだする。そこまでぼんやりしている自分に深く反省。ちなみにiPhoneは隣に座っていた親切な方が私が戻るまで待っていてくれ、事なきを得た。
そして取材を終え、さて原稿をと思えど頭が回らない。こんなところでリラックスしている場合じゃないというのに・・・
マスイユウからも、「眠い。リラックスし過ぎたのかも」と原稿が進まなくて困っているメッセージが届く。
ファーフェッチのネヴェスCEOの意味する「実店舗での素晴らしい体験と最新テクノロジーの絶妙な融合」とは少々意味が違うのかもしれないが、まさに最新テクノロジーを融合させた実店舗ならではの素晴らしい体験をさせていただいた。
興味のある方はぜひご予約を。
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あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は20ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員