16.5歳のレオンが見たロンドン・ファッションウィーク June 2022(若月美奈)

2022/07/12 06:00 更新


パンデミック以降、メンズとレディスを共に発表する新体制のロンドン・コレクションが発足。それまで1月に開催されていたメンズコレクションは2月のレディスに統合される形でなくなった。一方、同じくメンズが開催されていた6月は継続。レディスも含むジェンダーフリーなコレクションとなっているが、ファッションカレンダー的にはメンズの時期ということもあり、参加ブランドの大半がメンズデザイナーとなっている。

もっとも、その規模はどんどん縮小され、今回ショーを行ったのは10ブランドにも満たない。海外どころか国内の有力ジャーナリストやバイヤーの姿もまばらで、とても静かなシーズンだった。

3回目のコレクション取材に挑んだティーンエイジャーのレオンにとっては、それが幸いした。インビテーションなしにショーに潜り込んだ過去2シーズンと違い、PRに取材依頼のメールを送ったところ、大半のブランドからシートナンバー付きのインビテーションが届いた。

デビューブランドのバックステージインタビューや、デザイナー自ら新作を紹介するショールーム取材の誘いも来て堂々と初体験。若手中心のショーに混じって行われた卒業ショーも3つカバーした。

花粉症で目が腫れてしまったり、渋滞に巻き込まれてインタビュー予定のデザイナーのショーを見逃しそうになったり、会場を間違えて大遅刻するなどのハプニングもあったが、無事3日間の取材を終えた。

今回のキーとなったアフリカ系デザイナーについて、オフスケジュールでぶっ飛ばしたマーティン・ローズについて、地元ロンドンで生まれ育ったレオンならではの思いを語る。

過去のコレクション体験記はこちらから。

≫≫若月美奈の過去のレポートはこちらから

——今回はGCSE(16歳で受ける全国統一試験。5月中旬から1ヶ月以上にわたり21科目の試験が行われる)と重なり、コレクションを見るのは難しいと言っていたけれど、結局3日間全部カバーしたね。

ファッションウィークのスケジュールと試験のスケジュールを照らしてみたら、ショーは土日が中心で、その後の試験の数も少なかったので行けると思った。月曜日のショーも夕方からだったので試験の後に行けた。

——サイズ的に小さいファッションウィークだから、きちんとインビテーションを依頼して取材してみるというトライアルをするのにもちょうどよかった。

そう、今回は本当にストレスがなかった。今までは会場に入るためにいろいろと試行錯誤をして、それが大変だったから。

——前回のレポートのリンクをつけて取材依頼をしたので、ショーを見るだけでなく、インタビューの打診まで来るなど、一人前に取材したよね。では、いつものように順番にショーを振り返ってみましょう。

6月11日土曜日

14:00 カルロタ・バレラ


——一発目はカルロタ・バレラのデビューショー。どうだった?

会場がすごくよかった。ポートベローの高架下にあるスケートパーク。新作はキューバの日常をイメージしたコレクションだったのだけれど、縦に線が走る古い感じの生地がおじいちゃんの服を思わせた。おじいちゃんが若い頃着ていた服って感じかな。現地に行くと時間がゆっくりと流れていて、そんなミッドセンチュリー風の服が今でも残っているんじゃないかと思わせるコレクションだった。

——デザイナー自身はスペイン出身だけど、大好きで何回も訪れているキューバがテーマ。でも、スタイルはテーラードが中心でコンテンポラリーな服だった。

ファーストルックの黒いスーツが好きだった。ショー自体もとても心地のいいショーだった。その次のショーまで時間が空いていたので、ポートベローマーケットを回ることができたのもよかった。

——私たちだけでなく、みんなショーに来ていた人たちがマーケットを回っていたよね。土曜日のポートベローマーケットなんて昔はよく来ていたけれど、最近というかここ10年以上見てなかったから新鮮だった。お天気も良く、東洋人はいないけれど外国人観光客も戻ってきていて、楽しかった。レオンは来たことあった?

ノッティングヒル側のアンティークマーケットには来たことあったけれど、それ以外は初めて。

16:00 レイベンズボーン大学

——次は卒業ショー

バラエティーがあってよかった。セントマーチンなどのショーは、それぞれ個性はあるのかもしれないけれど、全員が同じような方向に向かっているのにて対して、この学校はいろんなタイプの服があった。中でも、セキュリティータグをアクセントにしていた服が面白かった。

17:00 AGR


——そして、バックステージインタビューのアポも入っているAGRのショーへ向かったのだけれど、渋滞して間に合わないのではないかとハラハラした。始まる直前に入ったので、自分の席には辿り着けずに2階のバルコニーから見た。

本当は近くで見たかった。ニットなのでテクスチャーとかが大切だからね。色は鮮やかなネオン。ちょっとおばちゃんぽいニットと子供のおもちゃのようなネオンカラーを重ねるあたりが新鮮だった。

——あとから写真で確認すると、ものすごくテクスチャーが面白かった。デザイナーのアリシア・ロビンソンは、編み地の研究とかものづくりにとてもこだわっているのだけれど、ショーデビューとなった今回はフォイルプリントを乗せたデニムなど、ニット以外の服も充実させた。

新しい挑戦も大切だけど、やはりニットがよかったかな。でも、ニットだけだと色にばかり目がいくけれど、デニムとか違う素材が混じっていたので、ニット自体のテクスチャーも際立ったのかもしれない。

——コレクションの着想源はいくつかあるのだけれど、その1つがノッティングヒルカーニバル。つまりこちらもポートベロー。今回はなにかとポートベローが気になる。

そういえば最近、ノッティングヒル、ポートベロー界隈ってまた注目されていると思う。というのも、インスタグラムに入ってくるビンテージウエアのポップアップショップのお知らせとかがみんなポートベロー。今回マーケットやお店をぐるりと回ってみて、普通の家にぎっしり古着が詰まっている店とか、服だけでなく家具など一緒に売っているすごく雰囲気のいいお店など、面白いところがいっぱいあると思った。

——確かにまたゆっくり見たいな。話はポートベローに戻ってしまったけれど、AGRのショーに戻そう。で、バックステージインタビューはどうだった?

はじめてだったので緊張した。ハッピーになる服が作りたいと言っていた。クラブへ行く服ってそうだけど、人に見せる服ではなく自分のために着る服っていう感じ。でも、インタビューはあまりよくできなかった。もっと事前にいろいろ調べておけばよかった。

——まあ、最初はそんなものでしょう。

18:00 ラブラム・ロンドン


——そして、2月にも見た、アフリカ系デザイナーのショー。

服を見せるというよりも、その場を体験するためのショーだと思った。自分達のカルチャーやアイデンティティのセレブレーション。僕は服に夢中で、音楽がどうのこうのってあまり興味がないので、ライブミュージックが延々と続いたのはちょっと退屈だった。

——このブランドのサイトにあるブランド紹介の最後に、「Designed By An Immigrant (1人の移民によってデザインされています)」と書かれている。デザイナーのフォディ・ドゥンブヤは自身がアフリカのシエナレオネからの移民であることをとても意識している。

そうだね。でも、アフリカのファッションって遠すぎて身近に感じられない。

——だから今日、こうしてコレクションを振り返る前にヴィクトリア&アルバート博物館で始まった「アフリカファッション」展のプレスビューに一緒に行ってみた。はっきり言って私たちって、個人的にはアフリカのファッションってあまり興味ない、というか理解できない。だから、この展覧会を見て少しでもそれが身近に感じられれば、アフリカ系デザイナーのショーの見方も変わるのかなと思って。

僕にとって、アフリカの服が1着あったとしても全く興味を抱けない。でも、その服を着たおばさんがロンドンのマーケットを歩いていれば身近に感じる。イギリスの学校にはさまざまな国の人が集まっていて、さまざまなカルチャーが混じりあっているのだけれど、そこにあるアフリカは受け入れられる。

——レオンはロンドンで生まれ育っているけれど、お母さんが日本人だから自然に日本の文化は受け入れられる。コムデギャルソンやナンバーナインが好きっているのもそういうことだと思う。

そう、僕がコムデギャルソンを好きなように、ラブラムの服はアフリカにルーツがある人が好きな服だと思う。

——それはそれでいいのかなあ。今、ファッションにおけるダイバーシティー(多様性)というのが散々言われているけれど、そもそもダイバーシティーってなんなのだろうかとラブラムやアルワリアといったアフリカ系デザイナーのショーを見ていて考えさせられた。ラブラムはアフリカ色が強すぎて、私たちのように全く異なる文化圏の人には受け入れ難いという声もある。でも、それは私たち日本人や西洋人のおごりではないかと。ダイバーシティーは「同化」ではなく、いろいろな文化を認めあうという「共存」であるはず。そもそも、ロンドンは昔からダイバーシティーな街。生粋の英国人なんてごく一部で、さまざまな国、さまざまな民族の人々が共存している。私は30年以上ロンドンに住んでいるけれど、日本人であることには変わりはなく、英国に同化しているのではなく英国の中で共存している。

フランス人と日本人の両親の元、ロンドンで生まれ育った僕の中には、イギリスもフランスも日本も自分のものとしてある。1つの文化の中で生まれ育ったわけではないので、逆に他の文化も受け入れやすいのかもしれない。

——そう、いってみればレオンはダイバーシティーネーティブだよね。

でも、ファッションブランドって考えた時には、いいブランドというか成功しているブランドは、1つのカルチャーに突出したブランドじゃないと思う。

——コムデギャルソンは?

コムデギャルソンは、日本のフィロソフィーがあるけれど、服は決して日本じゃない。日本の文化に触れていない人でも理解できるもの。フランス人もどこの国の人もが受け入れられるデザイン。

——コムデギャルソンが40年前にパリでショーをしはじめた頃、現地のジャーナリストは「自分を貧乏に見せたい人のための服」とか、「こんなボロボロの原爆服はあなた方(フランス人読者)ためのものではありません」ってけなした。でも、その後どんどんその世界にはまって、絶賛するようになった。

確かにそれは今、ラブラムの服はアフリカの人のための服だといって受け入れようとしないのと似ているようだけど、全然違う。ロンドンにはアフリカと西洋のミックスカルチャーなんてものはたくさんあって、いくらでも見てきた。そうした目で見て、ラブラムの服は新しくない。そこが問題なんだと思う。毎回新しいテーマ、新しいデザインをクリエイトしなければ意味がない。でも、音楽とリンクしたコレクションで、アフリカンミュージックやその世界観が好きな人は買うと思う。

——アルワリアはどう? 彼女は毎回新しいテーマを掘り下げて新作を作っている。まあ、今回はアフリカをテーマにしたけれど。インドとナイジェリアのハーフとしてロンドンで生まれ育った移民の子供で、自身が移民であるラブラムとは少し違うかもしれない。

だから、僕的にはアルワリアの方が受け入れられる。

——レオンは自分と違うカルチャーの服は着たいとは思わない?

いろんなカルチャーの服を着たい。でも、最近は文化の盗用問題などもクローズアップされて、慎重にならなければいけないとも思う。それは1つの弊害になっているかもしれない。違う文化を経験できなければ、それを自分の中に受け入れるのが難しくなる。ある文化を全く理解できないからその国にも行かないという考えと、何も考えずにその国の伝統的な服を自分勝手に取り入れるという2つの姿勢が両極にあるとすると、大切なのはそのバランスなんだと思う。ファッションウィークにさまざまなカルチャーの服が登場すると、人々がそのバランスを見つける機会になる。そういう意味で、いろいろなカルチャーの服があるのはとてもいいことだと思う。

19:00 ロビン・リンチ

Photo: Zoe Lower

——そして、次はロビン・リンチ。

好きだった。前回はスポーツブランドとコラボレーションして、デッドストックなどを使って服を再生するテクニックに目が行ったけれど、今回はゼロからのクリエイションでストーリー性がクローズアップされていた。

——コレクションの出発点はお母さんが1983年にマジョルカ島で買ったスマイリーが散りばめられたTシャツ。

色もスタイルもホリデー気分溢れる、とてもフリーダムを感じるショーだった。旅行先でバッグに詰めた服をミックスアップして着るようなコーディネートもよかった。バックステージのインタビューで話が弾んだビーチマットのようなカサカサとした生地も好きだった。強くないけれど、リラックスしたよいコレクションだと思う。

20:00 イースト・ロンドン大学

——その後、イベント枠で開催された卒業ショーを見た。ファッションウイーク初参加で、この学校については私も知らなかった。

確かにセントマーチンなどと比べるとレベルはまだまだだけれど、頑張っているなって思った。フィナーレに登場した卒業生たちが、結構年上の人がいっぱいいたのに驚いた。

——そう、年齢層が高かったのでアダルトエデュケーションなのかなとも思ったけれど、調べてみると普通の大学だった。

若い人にとっても、同年齢の人だけでない環境で学ぶことから得るものはあると思う。

21:30 ルエダー

——イースト・ロンドン大学のショー会場を出たのは21時過ぎ。ルエダーは徒歩圏内だけれど結構距離があって、19時30分から21時30分の枠でプレゼンテーションをするというので走り足で移動した。

着いたのは21時30分ぎりぎりだったけれど、まだまだフツーにやっていてゆっくり見れたよね。パッチワークを駆使したり、アーストーンを使ったり、こういうデザインって結構たくさんあるけど悪くなかった。ショーではなく、アートのインスタレーションのような見せ方もよかった。

——キャンドルで照らされた暗い通路を通って映像の部屋に行き、その奥に新作が吊るされた部屋がある。入り口の右手には、パンやパテなどがぐちゃぐちゃにテーブルの上に置かれていて、インスタレーションかと思ったら、食べられた。

遅く行ったので、みんなが食べ散らかしていて、それがアートのようだったんだね。とてもいい雰囲気でこの日が終了。

6月12日日曜日

11:30 カシミ


——日曜日はレオンが場所を間違えて大遅刻したカシミのショールーム取材でスタート。

すみません。

——公式スケジュールではデジタルでの発表だったのだけれど、ショールームでデザイナー自ら新作を説明してくれた。女性デザイナーのフール・アル・カシミは、創業デザイナーで3年前に他界した男性デザイナー、ハリド・アル・カシミの双子の兄弟。

すごく好きだった。スウェットシャツなどとてもウエアラブルな服でありながら、詩的なアテンションがある。映像もよかった。音楽も好き。

——この人はアラブ首長国連邦のシャルジャ出身で、中東と西欧のミックスカルチャーなコレクション。

ロイヤルファミリーで生まれ育った彼女が、それとは正反対のノマド(遊牧民)に夢中であることに驚いた。そこに歪んだパールのアクセントが加わる

——ノマドはミリタリーやテーラードと共に、創業デザイナーの頃からこのブランドのアイデンティティ。今回はサハラ砂漠の遊牧民トゥレアグの服の色である鮮やかなブルーがキーカラーになっている。パールは中東の天然真珠へのオマージュで、まさにハイソサエティの文化。良い形で自身のソサエティと自分とは違う人々のオリジンが融合している。

自分とは違うカルチャーをデザインに取り入れるとき、あまりしっくりこないこともあるけれど、このブランドはそれがとても自然で本物だと思った。アラビア文字の刺繍も、そこにある「フリーダム」などの意味を聞いて素敵だと思った。

——アラビア文字は創業デザイナーのハリドも採用していて、プレゼンテーションで彼がそこに書かれた詩のような文章の意味を説明してくれた時、素晴らしいと思った。それまでアフリカ同様に中東のものってあまり自分の中に受け入れられなかったのだけど、純粋に美しいと思った。

それがパーフェクトなんだと思う。アフリカのデザイナーもそんな風にできればいいのになあ。

——フールはもともとアート界の人。それにしても日本語がベラベラなのに驚いた。

そういえば、ジャケットの両胸にベルクロがついているデザインが気になった。ベルクロはものが張り付いて汚くなる。自然の中のいろいろなものを吸収して生きているオープンマインドなノマドへのオマージュかなって勝手に思ったのだけど、違うかな。

——デザイナー本人に聞けばよかったのに。

違ったら恥ずかしいと思って聞けなかった。AGRのインタビューで間違ったこと聞いて、「そんなことありません」って言われてしまったし。

13:00 アルワリア


——アルワリアは正直、よく覚えていない。なぜだろう。自分のものとして入って来ないのかな。

僕もそう。でも、ラブラムと比較したら、アルワリアの方がしっかり服をデザインしていると思う。カルチャーの紹介だけには終わっていない。

——今回のテーマはアフリカだけど、アフリカ全土を1つの文化圏として捉えたらしい。

それは正しいと思う。アフリカは元々1つなのに西欧人が植民地政策として国境をつくっただけだから。アジアの国々とは違う。

——「アフリカファッション」展のキューレーターが、一部のアフリカではなくアフリカ全土を紹介することに意義があるといっていたのもそういうことだよね。

14:30 ユーゼフィ

——このプレゼンテーションはレディスのバッグ。

正直、コレクションにはそれほど興味がないけれど、いいプレゼンテーションだったと思う。モデルが服を着て、それにあったバッグを持ち、後ろで街の様子がプロジェクターで映される。

——このプレゼンの後は一度別れ、レオンは次の日の数学の試験に備えてカフェで勉強していた。そして夜のショーで再び合流。

19:00 マーティン・ローズ


——そしていよいよ今回一番よかったというマーティン・ローズ。どこがそんなによかったの?

最近はアウトローな人たちのレプリカを表現するようなコレクションが多い。バレンシアがなどもそうだけれど、ホームレスを表現したりといった具合にね。それをマーティン・ローズがやると、本物に見える。本物のそういう人が出てきたようで怖かった。マーティン・ローズの昔の記事を見ると、みんなカリビアンデザイナーって言っているけれど、今は全くそれを感じない。

——確かに。私は当初から彼女にそれを感じなかったかもしれない。

この人はロンドナー。ロンドンのカルチャーにどっぷりと浸かっている。目が赤く充血して、髪の毛もベトベトで、1週間もレイヴで踊り続けているようなモデルがいたり、さまざまなパーソナリティーの人々がクローズアップされていた。その服を着ると、自分が変われるような強さがある。最近、タッキー(悪趣味な)ファッションが流行っているけれど、マーティン・ローズはその世界におけるオリジナルだと思った。

——ユウ(益井祐)が書いたショーレポートが的をついていた。あのショーが行われたボクソールという場所は、今はアメリカ大使館ができたりして随分様変わりしたけれど、昔は鉄道の高架下にナイトクラブやゲイのセックスクラブが並ぶ危ないエリアだった。で、そこで発表したショーに登場したのは、明け方クロークで間違って受け取ったり、勝手に取ってきた体に合わない他人の服を着ているクラブ帰りの人々のような服というもの。

そう。その通りだと思う。アイテムとしてはレザージャケットだったり、ジーンズだったり、ありふれたものなのだけれど、バランスがどこか外れている。女性のミニスカートも異常なほどに短い。でもそこにはストーリーが宿っていて、その外しがものすごくパワフルなんだ。

マーティン・ローズのアフターショードリンク

——アフターショードリンクは迎えのパブ。中に入るとファッション界とは全く関係ないような本物のタッキーな人々がたくさんいて一瞬戸惑った。するとステージのカーテンが開いて、タッキーなお姉さん、というかおばさんのワンマンショーが始まった。

このパブの中で、本物のタッキーな人々とタッキーなファッションをしている人々を重ねて見せたのだけれど、それがすごく面白かった。マーティンのコレクションは、昔のクラブシーンなどで見たタッキーな人々を再現しているのだけれど、どんなに頑張っても本物には敵わないっていうことをアピールしていたのかもしれない。でもね、時代錯誤のような本物のタッキーな人々っていうのも、今の時代にあえてそういうスタイルをすることで、元来自分の中にあるタッキーなイメージをカモフラージュしているのかもしれない。地のタッキーは自分で選ぶものではないけれど、オーパーリアクションしてタッキーをアピールするのは自身の選択。でも、地がタッキーだからこそそれができる。そういう意味ではやはり本物。

——タッキーなスタイルに目を向けたコレクションをそこらのデザイナーが作ると、全部がイミテーションになってしまう。一方で、今回パブで見たような本物のタッキーな人々がいる。マーティンのコレクションはその真ん中だと思う。モデルも普通のモデルではなく結構本物のタッキー入っている人々だったし。でも、彼らもマーティンの新作着ているわけで、その辺りのバランスが絶妙。タッキーな世界をデザイナーコレクションのレベルに見事に昇華させている。

そう、マーティンのコレクションはタッキーな人々のものすごくいいコピー。でも、コピーはコピー。気持ちが高揚するコピー。すごくよかった。

6月13日月曜日

18:00 ウエストミンスター大学BA

——最終日は夕方からのショー2つ。この卒業ショーはどうだった?

卒業ショーって同じ音楽で次々と違う卒業生の作品が出てくるから単調になりがちだけれど、1人1人とても個性があったので、違いがよくわかった。会場内にポートフォリオが展示されていて、それを見ることができたのもよかった。

19:00 ジャスティン・カシン

——そして最後は1時間待ちで始まったロサンジェルスのデザイナーのショー。新人かと思ったら、ベテランだった。

インスタグラムのフォロワーが200万人超えというから、現地では有名で売れているんだと思う。でもコレクションはヨウジヤマモトっぽい服があったり、全然違ったものがあったり。とてもコマーシャルなブランドなんだと思う。

——というわけで、最後はあっけなく終わってしまったのだけれど、今回はアフリカとタッキーについてじっくり考えることができて面白かった。

僕も面白かった。ありがとう。

≫≫若月美奈の過去のレポートはこちらから

あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は30ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員



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