22年春夏パリ・コレクションは、サステイナビリティー(持続可能性)やダイバーシティー(多様性)を感じさせるコレクションが相次いだ。今シーズンのパリを締めくくったのは「AZファクトリー」のショーだ。
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〈フィジカル〉
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)により多くの人が亡くなった。ファッションデザイナーも例外ではない。その一人がAZファクトリーをローンチしたばかりのアルベール・エルバスだ。22年春夏パリ・ファッションウィークは、世界から愛されたエルバスを追悼するランウェーショーで幕を閉じた。
45のファッションハウスやデザイナーが参加、日本から「サカイ」や「トモ・コイズミ」の名前も。親交の深かった「ディオール」のマリア・グラツィア・キウリは、エルバスの描いたイラストをモチーフにしたクチュールガウンを制作した。同じく仲の良かった「ヴァレンティノ」のピエールパオロ・ピッチョーリは全体を大きなラッフルが覆うワンショルダーのドレス。エルバスの姿やトレードマークのボウタイを多く目にした。
デムナ・ヴァザリアの「バレンシアガ」は巨大なリボンを配したコクーンシルエット、「コムデギャルソン」の川久保玲は、ボウタイをミニーマウスのリボンに見立てたミニー柄のドレスだった。一方でドリス・ヴァン・ノッテンはエルバスのイラストを彼のシグネチャーだったボリュームスリーブのコートにプリント。オリヴィエ・ルスタンによる「バルマン」はバストアップのエルバスのイラストを立体的に赤いシルクのボウタイやクリスタルで装飾、ドレープをたたえたミニドレスのエッジはかつてエルバスがラグジュアリーに持ち込んだローエッジだ。バストを囲む眼鏡、ウエストバンドの蝶タイ、そしてスーツをスカートに、ドレス全体で表現したのはロージー・アスリーヌだった。
現在「ブルーノ・シアレッリ」が手掛ける「ランバン」も参加ブランドの一つだった。かつてのマネジメントとエルバスは決して良い終わり方をしていないが、エルバスが残したであろう長いトレーンを引くドレスの背中にいる彼の姿を見て涙が出てきた。彼にとってランバンとの決別のショックは大きく、長年にわたりデザインをすることが出来なかったと聞いた。AZファクトリーで再起を果たした矢先の死に悔しさが込み上げる。新ブランドでは最新の素材やニット技術を使い、より多くの女性を喜ばせたいとダイバーシティーを強調していた。そんなAZファクトリーのチームも25体の作品で師にオマージュを捧げた。
今回のパリ・ファッションウィークのか細いモデルだけのランウェーを見て、いかにインクルーシビティーやダイバーシティーが遅れているかを実感した。エルバスはそんなパリのラグジュアリーを変えてくれるかもしれなかった。エルバスの言葉「ラブ・ブリングズ・ラブ」(愛は愛を呼ぶ)をテーマにしたイベントは、ハイプやソーシャルメディア重視の使い捨てファッションの時代に、人々に愛情を思い出せてくれたと信じたい。
ステラ・マッカートニーのショーが行われると急きょ連絡が入った。前回のデジタルでの発表後のプレスとのズームカンファレンスで、ステラ自身がフィジカルのショーの再開を熱望していたので期待が高まる。ふたを開けるとゲストは60人のみのプレミアムなものだった。着想源となったのはドキュメンタリー映画「素晴らしき、きのこの世界」。エスパス・ニーマイヤーのレトロフューチャーな空間で、ステラの考える「キノコこそがファッションの未来」というコレクションを見せてくれた。
コレクションで最も重要だったのは「フレイム・マイロ」と名付けられた新バッグ。ボルトスレッズ社が開発した菌によるレザーの代替品から作られているらしい。キノコはコレクションにも反映された。植物図鑑風キノコのイラストプリントが小さなジレやドレス、ワークパンツを覆う。キノコの裏のひだにも見えるストリングによるデコは、宇宙飛行士の下着に張り巡らされた冷却チューブがインスピレーション。実はこのディテールはミレニアム期に1度はやったことがある。そんなストリングスが上下左右に走る透け感のあるワークパンツも。
カットアウトのボディースーツは、21年秋冬のディスコティックなイメージの継続にも見える。ボディースーツにはクリスタルで覆われたデザインが出てきたが、そのきらめきは顕微鏡で見た菌類の世界の表現だろうか。目が回りそうな幾何学模様とあいまって、マジックマッシュールームの幻覚作用のようなサイケな想像が膨らむ。しかしながらステラの願うサステイナブルな世の中は幻覚ではなさそうだ。
(ライター・益井祐)
〈デジタル〉
ミュウミュウの22年春夏は、軽やかな日常性とエキセントリックな要素が混ざり合う。ルックを構成するのは、スタンダードアイテムばかり。しかしそれが丈のバランスでキュートに変わる。チノパンツ、プリーツスカート、シャツ、セーター、ブルゾン。ボトムはチノクロスが中心だが、ヒップハングで腰骨を、マイクロミニで太ももを露わにする。チノのマイクロミニスカートやチノのヒップハングプリーツスカートといったアイテムだ。合わせるトップはほとんどがへそ出し。クロップトトップにミドリフトップ、ブラトップのような着丈まである。ブルゾンももちろんミドリフ丈。シャツとセーターを重ねたセットが様々な着丈となる。トラディショナルなチノクロスや端正なシャツとセーターの重ね着ルックが、大胆な着丈の変化で軽快になり、着丈に合わせた布のレイヤリングがアクセントとなる。
着丈の変化で見せるコーディネート以外にミュウミュウらしいドレススタイルも充実する。サテンドレスにメタリックな刺繍を飾り、フラワー刺繍やビジュー刺繍で輝きをプラス。ただし、ドレススタイルでもヘムから裏地のような布をのぞかせるレイヤードパーツのデザインは取り入れられている。軽快なトラッドスタイルに加わった健康的な肌見せが、新たな時代の日常性とエキセントリックな楽しさとのバランスを感じさせる。
メゾン・マルジェラは撮影スタジオでの映像を配信した。オートクチュールのストーリーに続く海を背景にした物語。波止場の写真を背景にして、モデルたちが語り合い動き回る。断片的な映像をコラージュしたような見せ方は、必ずしも服の詳細をとらえさせてくれない。その中で、気になるのはマリン、ワーク、手仕事、ビンテージ、デコンストラクトといった要素。セーラーのようなスカーフの巻き方や帽子が海を思い出させる。ほつれたヘムのスカートやチュールを重ねたレイヤードセットアップに、時代とともに変化するビンテージピースのような感覚を覚える。コースターのような四角い布をつなぎ合わせて作ったトップに手仕事のぬくもりを感じる。メタルパーツとPVC(ポリ塩化ビニル)をつないだレイヤードドレス、チュールを重ね花を留めつけたボリュームコート、メランジニット、マルジェラらしい手仕事のカスタマイズが服の表情に変化を作る。
(小笠原拓郎)