【パーソン】ツノカワファーム代表 角川昌弘氏 モノや人の魅力をアップサイクル
「自分だけの土俵で勝負したい」とモノや人、産業までアップサイクルすることで、ありそうでなかった市場の隙間を突くツノカワファームの角川昌弘代表。古着のスウェットをリメイクしたクッションに始まり、バンダナ柄の座布団、だるま型インテリアなど日本の生活・文化に根付いた商品に、別の角度からアイデアを注入することで新たな価値を生み出すことにたけている。商品開発だけでなく、合同展の主催やマニアックの趣味を掘り下げたプロデュース業などマルチな活動で潜在的な需要を掘り起こし続ける。
日本の生活・文化に別角度の発想を注入
――角川氏の発想の原点はどこにある。
ビームス入社から10年で退社。そこで体にたたき込んだ流行の先にある新しいモノ・コトを見つける発想力と行動力をマーケットで応用してみたくて独立しました。今でも流行を商売にしたくない。というよりも苦手です。人が驚くような見たことがないモノを作り出すことにやりがいを感じます。そういう体質が染みついているのでしょうね。
ビームス時代は、アルバイトからスタートし、内部採用で正社員になりました。いきなり配属されたのが少数精鋭の部署で、新しいモノを見つけ、いち早く消費者に届ける面白さに気づきました。その後、今の自分を築いてくれた部署と出会います。それが商品開発課でした。社内公募があった時、直談判して異動させてもらいました。今、市場で売れることよりも将来売れるモノを探し出すのが目的。そのために未開拓の工場やブランド、仕入れる国などを開拓し、バイヤーにつなぐのが役割です。
例えば、クラシックなアウトドアブランドをアメカジ業態やキッズ部門に紹介したり、スノーボードウェアのアウターを街着として提案したりしていました。影武者的な特殊な部署でしたね。当時はインターネットも今のように発達していませんでしたから。その部署は現在はありません。
――独立してまず何から始めました。
2年間は何もしていませんでした。いったん業界から離れ、いち消費者としてマーケットを俯瞰(ふかん)して観察していました。事業の方向性を見極めるためです。自分は多感な青春時代にアメカジ、ビンテージ、裏原ストリート、モッズなどのファッションがメインストリームにあり、多くの刺激を受けることができた恵まれた世代だと思っています。実際に高校時代から古着が好きでした。
ただ、トレンドを追いかけ続けるだけのファッションは一生をかける仕事ではないとの意識もありました。物作りが好きで、その頃、服から雑貨、次にインテリアへと関心が移っていったこともあり、リメイク商品の開発に着手しました。当時は「アップサイクル」という言葉もありませんでしたが、元々の役割を変換し新たな魅力を作り出すリメイク職人との出会いがきっかけです。
まったく注目されていなかった古着のスウェットをカバーにしたクッションを開発したところ、ビームスなどのファッション販路のほか、インテリア専門店が扱ってくれました。服だけでなく部屋の中の物までこだわるアメカジ好きに受け、3~4年はリメイク一本で食べていけました。口コミから「材料として古着を買ってほしい」との声も多く、オーバーオールのポケットディテールを生かしたリメイクのエプロンもすごく売れました。市場にコピー品が出回るほどでした。
――リメイク(モノ)の次は、人、産業のアップサイクルに踏み出す。
人とは職人のこと。とくに長年にわたり培ってきた和(日本)の伝統的な技術にフォーカスしました。座布団の産地での本格的な作り方を生かしながら、側地をバンダナ柄や迷彩柄に変えることで、日常生活の中で忘れ去られたようなありふれた商品に新たな価値を吹き込むことができました。このリメイククッションの進化形である「ザ・ブトン」は10年近くのロングセラー商品になっています。
こうした取り組みによって、日本の文化を次世代につないでいきたいと思っています。数年前にアウトドアチェア専用のザ・ブトンも開発しました。屋内で使うのが当たり前のモノをテントや車内などアウトドアシーンでも使えるように発想を転換したことで、新たな需要を喚起し、市場を拡大することにもつながります。
さらに和の文化を深掘りしました。だるま型のクッション「ハッピーダルマ」も好評です。バンダナ柄などを使ったため、若い人でも手に取りやすい身近なインテリアとして意識してもらえ、縁起物の本物のだるまをインバウンド(訪日外国人)の観光客などにも知ってもらえるとうれしいですね。日本の伝統工芸からサブカルチャーまでを切り口とした「ビームス・ジャパン」とも親和性が高く、ジャパンブームという時代の流れと結果的にマッチすることになりました。
異質なものを融合し新たな価値を生み出す
――万人に受け出したらピンチ。なるべく流行しないモノを意識する。
今度は毎日のように食べている好物のカレーが気になりだしました。そうしたらカレーをテーマにしたブランドってないなぁと思い、秘密結社のようなイメージで駄じゃれのようなロゴをプリントした「カリーメイソン」を立ち上げたのです。ロゴ入りのTシャツやキャップが中心です。販売手法も従来型の卸売りだけでなく、一期一会でライブ感のあるイベント販売も大切にしています。
予想以上にカレー好きの心に刺さったようで、熱狂的なコミュニティーができつつあります。私が大好きで頻繁に通い続けているカレーの聖地、東京・神保町のカレー専門店「エチオピア」との協業によるグッズ開発も実現しました。今まで地方のお客は食べたら終わりでしたが、キーホルダーやキャップなどのお土産を買うことで思い出も一緒に持ち帰ることができるようになりました。最近では他のカレー屋さんからもグッズ開発を含めたブランディングのオファーが増えています。
次の展開として、カレーとアイドルをミックスすることで海外にも発信したいと思っています。日本のカレーはラーメンと同様に国民食でありつつ、独自に進化したフードカルチャーです。カレーブームは今まではマニアックなものでしたが、外国人観光客も巻き込めればポテンシャルは大きいと見ています。さらに、アニメやアイドルなどアキバ系カルチャーは成熟した巨大産業であり、世界に通じる日本のキラーコンテンツです。二つの世界を掛け合わせれば新たな市場が創造できるかもしれません。このプロジェクトを面白がってくれる人も多いので、そうした人たちと組んで大きく育てられればと思っています。
――メジャーな世界にも探してみると、磨けば光るダイヤの原石がある。
みんなが知ってる〝キューピー〟人形は東京・下町のオビツ製作所の「オビツキューピー」のことです。当社ではキューピー人形をビームス・ジャパンの新宿店がオープンした時から、おもちゃとしてではなく、インテリア商品として販売してもらってきました。今ではお土産の定番になっています。この間の販売実績と信頼関係からアパレル・グッズのライセンス契約を結びました。今月、ファッションブランド「エックスガール」との協業第1弾商品を販売しました。そのほか、数社との協業も準備しています。
抜群の知名度がありながら、今までは本業以外に広げるつもりがなかったらしく、オビツ製作所としても創業以来初めてのライセンス事業のようです。新たな用途・分野でファンが広がることで既存の産業をアップサイクルすることが可能になります。
――モノがあふれ返り飽和したマーケットの中にもブルーオーシャンはある。
常にブルーオーシャンを探すのは大変です。レッドオーシャンも視点を変えると、専門家の見落としはたくさんあります。門外漢だからこそ思いつくアイデアを注入できれば、新たな需要を掘り起こせるはずです。新たに開発したミニちゃぶ台は若者の一人暮らしでも、アウトドアシーンでも使えるようにサイズ感や材質をアレンジしました。最近の若者が家具や調理器具を買わずに、アウトドアのギアやグッズで代用して生活していることがヒントになりました。天板には耐荷重と耐火性に優れた土木建材「モルテックス」を使い、佐官職人に手作りしてもらいました。シンプルで折りたためる脚は特許を持つ東京・下町の会社に依頼。収納しやすく、持ち運べる利便性が強みです。災害時にも役に立つでしょう。
日本の生活文化の中に昔から身近にあり、今も残っているモノには必ず理由があります。残る理由を見つめ直すことで次の時代につながる商品開発ができるはずです。
■ツノカワファーム
古着のスウェットをカバーにしたリメイククッションの開発からスタート。クッションの派生、進化形として、「ザ・ブトン」「ハッピーダルマ」など和の文化や伝統技術にフォーカスした商品を開発。アウトドアとインドアの両方で使える「アウテリア」のグッズ・ギアも提案。好物のカレーライスをテーマにしたブランド「カリーメイソン」も立ち上げた。さらに異質な世界であるカレーとアイドルを掛け合わせたプロジェクトもスタート。最近では国民的な人気キャラクター「キューピー」人形(オビツ製作所)のライセンス事業も進める。
記者メモ
「アイデアは尽きない」と角川代表。身近でありふれた生活用品であっても、外からその業界の常識にとらわれないアイデアを注入することで、新たな需要を掘り起こすことができる商品に生まれ変われることを実証してくれている。
今の時代、無からまったく新しいモノを生み出すのは難しい。タコつぼ化した専門家が見落とすような利用者とフラットな立場からの視点によるアレンジ、既存のモノ・コトのアップサイクルが重要なのだろう。さらには一人だからこそ即断即決できるスピード感が大きな強みになっている。
今秋には休止していた合同展も新たな形で復活させるという。
角川代表のジャンルレスでボーダーレスな活躍はこれからが本番だ。大きな転換期を迎えているファッション業界にとっても希望の星になりうるはずだ。
(大竹清臣)
(繊研新聞本紙20年1月24日付)