楽天ファッション・ウィーク21年春夏は、ショートムービーのデジタル配信が相次ぎ、視聴者をいかに飽きさせずに楽しんでもらえるか、ストーリーに奥深さが見て取れた。重要なのは、自己表現の強さよりも分かりやすさだ。初めて見る人にも、心を突き動かすパワーがあるかどうかがビジネスの発展の肝となる。
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〈デジタル〉
カイキ(飯尾開毅)は、1分の動画の中に、21年春夏コレクションのポイントを凝縮した。ルックを撮影するスタジオを背景にして、テキスタイルの魅力、ニットのフォルム、レイヤードのバランスなど独自性の立った部分を切り取って多面的に編集する。アップテンポな音楽とともに、ルックや実物を見てみたい気持ちを誘うイントロダクションのような形に仕上げた。
今までになく、ぐっと大人っぽさを感じさせるのは、配色のコントラストと直線を生かしたボトムライン。ダークカラーに異なるトーンのピンクを重ねて艶っぽく仕上げる。カイキらしいグラフィカル柄は凹凸のあるテキスタイルに加工して柔らかに表現。ワイドパンツに太めのプリーツスカートを重ねたり、ドレスのウエストを斜めに切り替えてスクエアのヘムラインを立たせたりと、レイヤードの変化できりりと見せた。
メアグラーティア(関根隆文)は柔らかな線のアニメーションを取り入れながら、洋服の制作過程から撮影までを集大成したショートムービーを配信した。モデルの着用動画とともに、墨流し染めの加工や縫製の現場、トワルでピン打ちするシーンなど、服作りのバックヤードを見せた。20~30代を中心としたエンドユーザーに、様々な人の手が加わって物作りしている価値を丁寧に伝える姿勢がうかがえた。
中間色のグレーを生かした、モダンで温かみのあるスタイリングが目を引く。スポーティーなブルゾンは、ブランドを象徴する花にストライプを重ねたプリント地を切り替えた。ロゴの入った長袖Tシャツは墨流しの染めの模様が入った7分袖ジャケットをレイヤード、肩の力が抜けた一面が光った。
シンヤコヅカ(小塚信哉)の動画は、廃墟の中の天井の高い空間に閉じ込められたモデルが外にはいあがろうとするシーンでスタート、次第に廃墟を歩き回るシーンや青空を映した映像に変わる。外に出たくても出られない記憶をたどるような印象を感じさせた。ただ、パソコンやスマートフォンの画像では、最後に登場するルックが小さすぎてブランドの特徴が見えにくい。シンヤコヅカの魅力は、テキスタイルの工夫などで様々なワークウェアを進化させるクリエイションにある。21年春夏は、はしごのようなレースを配したワークジャケットとクロップト丈パンツ、オリジナルのスカーフ柄をプリントしたセットアップなど、さりげなくエレガンスを加えたアイテムが目立った。
ルックのデジタル配信を行ったミスター・ジェントルマンは、テーラードやミリタリーのアイテムをベースに、アウトドアやスポーツの要素をミックス。ネオングリーン、ブルー、ネオンピンクの鮮やかなウォールに観葉植物を配置した演出で、日常着をトロピカルなムードで見せた。
ダブルブレストのジャケットや異なる迷彩柄を切り替えたミリタリージャケット、バミューダパンツ、その下からのぞくのは膝下丈のタイツ。薄いグレーやネオングリーンのタイツをハイライトのように差し入れ、クリーンなストリートスタイルへとアップデートさせている。生地を切り替えたストライプ柄のシャツやショート丈のパーカに、メッシュのパンツとタイツをレイヤードしたルックもある。自転車通勤が増えるなど日常生活が変化するなかで、エレガンスや紳士的な印象を損なわずにアクティブに走り回る、都市型ワードローブの進化を感じさせた。
韓国から参加したディ_カフェインオム(アビズモジョー)は、嵐の中の西洋の城を背景にしたランウェーを動画で伝えた。きれいめのリアルクローズの着こなしを新鮮に見せるのは、組み立て途中のテーラードアイテムを応用したアクセサリーパーツ。肩線でつないだだけのピンストライプのジャケットの身頃をショート丈にしてベストにしたり、シャツ襟と前立てを延長した細いストールをざっくりとしたニットに合わせたりと、クールなスタイリングを外して見せた。
(須田渉美)
コウザブロウ(赤坂公三郎)は巨大なレコードプレーヤーを舞台に、インスタレーション映像をデジタルで配信した。冒頭はスキンヘッドのダンサーが回転するレコード盤の舞台で踊る映像。そこから次々とモデルが現れ、立ったまま回るという演出だ。服はスウェットパーカにキャップ、Gジャンといったカジュアルなスタイルが目立つ。キャップを目深にかぶりフードを重ねて表情を抑えたモデルたち。面白いのはパンツのシルエット、膝下からフレアに広がる短めのパンツ。バイカーパンツのようなアナトミカルなシルエットだ。コートやジャケットのシワ感は熱転写でできたような不思議なタッチ。ウニのとげのような黒いスカーフやトップは、絞りの工程のまま生地を固めたかのような立体感。枕のようなアクセサリーを抱えたモデルが着ているセットアップは、グラフィカルなパジャマスーツのように思えてくる。フューチャーリスティックなムードだったニューヨーク・コレクションの映像とは異なり、シンプルな中でのフォルムの探求を感じさせた。
(小笠原拓郎)
〈フィジカル〉
これまでパリ・メンズコレクションで発表してきたリンシュウ(山地正倫周)は、八芳園の日本庭園を背景にフィジカルのショーを行った。装飾性に富んだテキスタイルをぜいたくに使い、センシュアルでダイバーシティーを感じさせるテーラードアイテムの着こなしをユニセックスで見せた。
ベースは、シャープなラペルのテーラードジャケットやハーフ丈のスラックス、ミニマムな襟のスポーティーなブルゾンなど着回しやすいアイテム。そこにコード刺繍のクチュール的な手法で動きを作る。メタリックオレンジやレインボーカラーのパイソン柄ジャカードのセットアップが鬱々とした気持ちを吹き飛ばす。レディスは袖にスリットの入ったテーラードジャケットにショートパンツ、コード刺繍のベストに落ち感のあるパンツなど。ブーツインして着こなす。メンズのアイテムをジェンダーレスなアプローチで組み立てた。
(須田渉美)