佐藤繊維 「ホールガーメント」工場を本格稼動

2017/04/13 06:30 更新


 紡績・ニット製造の佐藤繊維(山形県寒河江市、佐藤正樹社長)はこのほど、無縫製横編み機「ホールガーメント」の専用工場を本格稼働した。トータルコストで中国品と戦えるニットOEM(相手先ブランドによる生産)を提案し、アパレルメーカーや小売業とともに「日本の物作りの再構築」(佐藤社長)に取り組む考えだ。

(橋口侑佳)

 現在、日本に流通するニットの99%は海外製品。売れ筋を追いかけた物作りで価格競争が激化し、労働コストの安い中国や東南アジアに生産地が移っていったことが背景にある。その中国、東南アジアも、賃金の高騰でかつてのようなコストメリットは見込めなくなっている。加えて、旧来のサプライチェーンにとらわれないネットビジネスの台頭で、ストーリーやトレーサビリティー(履歴管理)の重要性が増し、「物作りのパートナーを真剣に考える局面に来ている」と強調する。

パイ奪い返す

 ホールガーメントは、縫製とリンキングが不要で工賃が抑えられるうえ、全自動のため、生産量が増えれば増えるほど製造コストが低減できる。「特殊な素材を小ロットで生産するため、現在の稼働率は30%で推移しているが、それを90%に上げられれば、加工賃は3分の1で済む。十分中国と戦える」と判断した。日本製ニットを従来より安価に供給できるビジネスモデルを打ち出し、安価な労働コストに依拠した物作りからの脱却を促す。

日本も量を狙える

 同社は3年前、廃業した紡績工場2社を譲り受けて糸の品種を増やしたほか、染色工場の買収で糸染めを内製化した。同時にホールガーメントを徐々に増やし、昨年5月に専用工場を立ち上げた。新たに導入したホールガーメントは25台に上り、計52台に増強した。

 ホールガーメントOEMの加工賃は、通常同社が手掛ける水準の半分。それでも中国の2倍に上るが、「以前と比べるとかなり縮まった。高い原料を使えば、さほど小売価格の差はなくなる」。消費地のより近くで生産できるため、追加発注などに柔軟に対応でき、トータルコストでは優位に立てる。最も価格差があるという染色加工賃も、大きなロットで安定操業できれば、「だいぶ近づく」。同社で紡績、染色、編み立てまで一貫すれば、「この20、30年日本では出せなかった価格で提供できる」という。閑散期を活用すれば、さらに下がる。

 コストとともに、クオリティーでの差別化も追求する。ホールガーメントは5、7、12、15、18 ゲージ とローゲージからハイゲージまで揃えるが、メインは「中国やイタリアが敬遠する」15、18 ゲージ 。自社のトップパタンナーがソフトのプログラムを開発し、従来より立体的で美しいシルエットを実現した。

 ホールガーメント工場にかかわる投資額は、4億円を超えた。流通構造の変化と弱体化する日本の繊維産業に、「このままでは日本で物を作れなくなる」との危機感が突き動かした。ただ、単独ではなく、「アパレルや小売りとのパートナーシップが重要」という認識で、取り組み型のビジネスを模索。海外にも拡大する。昨年から米国向けを強化しているほか、9月には中国向けをスタートする。

最小ロットは300枚。今回の増設により、編み機の所有台数は130台になった



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