あえて“アナログ”を使う専門店 オーナーの個性が響く

2020/01/04 06:29 更新


【専門店】あえてアナログで伝える オーナーの個性が響く

 老舗の個店では目利き力を生かした仕入れやスタイリング提案など今まで培ってきたノウハウを生かし、著作物の出版や手描きイラスト入りのDMというアナログなツールを使った顧客とのコミュニケーションを大切にしているところが多い。デジタルツールでは伝わりきれないオーナーの思いを受け取ることができ、新たなファン作りにもつながる。

●手描きのイラスト

 鳥取県米子市のメンズセレクトショップ「EFGストア」を30年以上運営する丸越の越智浩史・英次兄弟。兄の浩史氏が社長を務め、弟の英次氏とともに、バイイングから店頭販売までこなす。弟の英次氏による手描きのイラストによるスタイリング提案のDMが常連客から愛されている。イラストの材料である服は、仕入れ先の展示会で撮影した写真をシーズンごとにまとめたノートがベースになっている。デジタルでのコミュニケーションが氾濫(はんらん)する中、味のあるイラストのタッチと手描きの紙の温かみは自店の世界を伝えるのに最適な表現方法だ。

EFGストアの19年秋冬おすすめスタイルをイラストで表現するDM

 顔の見える常連客に間違った選択をしてほしくないとの思いから、専門スタッフまで採用していたECは2年前にやめてしまった。SNSでの発信もやめ、情報発信は思いが伝えやすいブログのみに絞った。「リアル店での接客は時間がかかる分、その道のプロに選んでもらった満足感を顧客に提供できるのが強み」と浩史社長。ベーシックなウェアに小物でアクセントをつけるようなギャップのあるコーディネートを心掛けているという。

●服に悩む女性へ

 今秋に30周年を迎えた島根県松江市のレディスセレクトショップ「ダジャ」。板倉直子代表は「長年にわたり、自分が店頭で培ってきた着方のセオリーやノウハウを服に悩む多くの女性に伝えたい」との思いから、初の自著『大人のためのかしこい衣服計画』(主婦と生活社)、今春2冊目『頑張らないおしゃれ』の出版にこぎつけた。本の中ではスタイリング提案はもちろん、板倉代表自身のライフスタイルや趣味の世界まで紹介した。それによって、地方の個店としては珍しい存在、ある種のカリスマオーナーとして、憧れと親しみの輪が全国に広がっている。

ダジャの板倉代表が今までのノウハウを凝縮したスタイリング本

 きっかけは5年前の主婦と生活社が出版するスタイリング企画への掲載。その後、雑誌社主催の伊勢丹本店での期間限定ショップに参加し、自ら薦めたリネンシャツが予想以上にヒットしたことに手応えを感じたという。

 自著の出版を契機に伊勢丹本店と阪急うめだ本店などへの期間限定ショップを定期的に出店する。松江の実店舗を休んででも外部出店では自社のスタッフがパーソナルな接客をすることで、ダジャの世界がしっかりと伝え、地元以外のファンを拡大することにつながる。

●オヤジを変える

 東京・恵比寿でメンズショップ「Pt・アルフレッド」を運営するジャックロビーの本江浩二代表は昨年春に自著『オヤジの着こなしルール・悩みをアジに変える』を出版した。

「Pt・アルフレッド」の本江代表が出版した『オヤジの着こなしルール・悩みをアジに変える』

 地元(富山県高岡市)の洋服屋でアルバイトを始めてから40年超、恵比寿でPt・アルフレッドを立ち上げ25年以上を店頭に立ち続け、「いろいろな世代の洋服に関する多種多様な悩みを直接聞き、寄り添い、相手の懐に一歩踏み込んで悩みを解決してきたノウハウを1冊にまとめ、みんなとシェアしたい」という。

 自著の中身を幅広い層に伝えるため、書店でのイベントにも力を入れた。「ファッションへの関心が薄れてきた〝オヤジ世代〟に少しでも味のあるオヤジに変わるきっかけ作りのお手伝いができれば」との思いが強い。昨年夏には三省堂書店神保町本店と協業し、期間限定コーナーを開設するとともに、トークイベントを開いた。そこで本江代表は「神保町は、今は古本が有名だが、かつてはファッショナブルな大人も多い文化の街だったので、もう一度おじさんの需要を掘り起こしたい」と強調した。その後、故郷の高岡市の書店でもイベントを開催した。

(繊研新聞本紙19年11月14日付)


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