新型コロナウイルス感染症拡大による緊急事態宣言は解除され、ショップにはお客が戻り始めている。しかし、長期の外出自粛や消費マインドの低下は専門店経営に大きな打撃となった。新しい生活様式やマスク着用、ソーシャルディスタンスなど、コロナ禍前の状況とも違う。廃業を決めた専門店が増えているなど環境は厳しいが、コロナ禍を契機に自社や客の動向を分析し、新たな経営に切り替えて生き残りを模索している専門店がある。
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◇店絞りウェブでも
たげ屋(東京・調布市)
東京・調布市のレディスセレクトショップのたげ屋は、2月から新型コロナウイルス感染症拡大の影響が出始め、売り上げは3月が前年同月比25%減となり、併設する2店舗の1店を閉鎖する考えだった。しかし、4月がさらに80%減となり、「ここまで落ち込むとじたばたする段階を超え、逆に冷静になれた。考える時間だけはあった」(横山誠介社長)ことで、企業の転機と捉えて大きく舵(かじ)を切った。新たに通販を開始、そのため閉鎖予定の1店を撮影スタジオとし、カフェやイベントペースも設け、リアルでの顧客対応強化とオンラインショップの運営に切り替えた。
毎月発行しているカタログの見せ方をより分かりやすく工夫し、インスタグラムによる商品紹介やスタッフの動画配信なども始め、通販の環境を整えた。スタジオは撮影スペースをあえて店頭に配置し外から様子が見えることで、通行人が「何してるんだろう」などで、新規の来店も増えている。これは「うどんやたこ焼きなど、作るところを見せて人が集まっている」ことをヒントに取り入れた。
品揃えは19年から店頭在庫の約40%削減を進めており、さらにターゲットと商品を絞り込むことで、売り場減少をカバーする。軸は2世代が着用できる品揃えで、一つの同じキーアイテムを決めて2世代の魅力がそれぞれ演出できるコーディネートを提案している。きっかけは親子が同じ服を試着するなど「年代は関係なく、趣向で購買している」ため、在庫を少なくしても違った着こなしを提案することで、客数や買い上げ単価アップが狙えると判断。サイズ感が課題となるが、ボトムのサイズバリエーションやトップのパターンなど対応可能なブランドを軸に、世代が異なるスタッフ2人が納得する商品だけを仕入れている。コロナ禍でできた時間を生かしてロープレを行い、武器である接客力を生かしたコーディネート提案の技術力アップにも努めた。
通販の売り上げも徐々に増え、新規客や親子連れも増えており、「まだまだ、客数増は見込める」と手応えを感じている。創業36年で2代目となる横山社長は「今後を考え、どの世代を対象にするのか決断した。ピンチはチャンス」と、次のステージに向けた取り組みを加速させている。
◇対面で勝負する
クール・デ・シエル(埼玉・越谷市)
「もう一度、ショップや働き方の在り方を考える機会となり、知恵を絞って取り組んだ」とは、埼玉・越谷市のレディスセレクトのクール・デ・シエルの西谷恵子代表。路面店立地で休業はしていないが、4月から5月にかけては政府要請に伴い営業時間を短縮。3月は前年をクリアしたものの、4月は25%減となった。コロナ禍で、「ファッションができることは」と考え、3月からマスクを製作。スタッフの手作りで、店内に服があるなか、「今日からマスク屋になります」と、地域のマスク不足にいち早く対応した。洗えるマスクで購入者からは「ありがとう」と感謝も。業界でもマスクを作る企業が増えてきたが、「なぜ、いち早くアパレルが作らないのか。困難に対し、繊維で返すのが使命では」と、疑問を感じたという。
5月は取引先の帽子メーカーが「販売できずに在庫がある」と聞き、インスタグラムで販売を始めた。送料無料で地方からも注文があり、70個中46個を販売、「日頃お世話になっており、負けて欲しくなかった」。これまで対面販売が基本で、ネット販売は行わなかったが、調整ができる帽子やバッグなどサイズに関係ないものは「今回だけは、臨機応変に考え、売れるものは売る」姿勢で初めて取り組んだ。5月下旬には「プレミアムお買い物券」を販売、1冊1万円で1万2000円購入できる。60冊販売し、「購入した人は買い物で使用してくる」と、5月は10%増で、6月は15%増と復調。色々なことを考えすぎて、「5月末は3日間、寝込んでしまった」という。
6月からは第1、3の火曜日を休みとし、月、火の連休にした。営業時間は月~土曜日を11時から19時(変更前10時30分~20時)、日曜日は11時から18時(同)に短縮、「以前から考えていた働き方をこの機会に思い切って行った」。取引先ブランドは20年秋冬物から50%に減らす考えだ。じっくり取り組めるや紹介したいブランド、分かりやすい品揃えにするためで、「失敗かもしれないが、チャレンジする」という。
マスクはもう作らない。「もうアパレルが作る時期は終わった。今からはファッションの楽しさを伝えることが使命」という。対面販売で勝負しファンを増やしてきたので、ネット販売もしない。購入してもらった時の笑顔や喜んで帰ってもらえる楽しさが違い、「やはりお客様の顔や好みが分かりづらいネットはアドレナリンが上がらない」という。20年のプロの経験が生かせるリアル店舗の在り方は変えないという。
(繊研新聞本紙20年7月30日付)