【専門店】若手が運営する好調ショップ 自身のノウハウを若い世代にも

2022/04/11 06:30 更新


 2月3日付に続き、20~30代が運営する好調店の秘訣(ひけつ)を探る。今回紹介するのは、東京と大阪のメンズセレクト2店。両店とも競合の多い大都市に店を構えているが、開業から数年で年商が1億円に達した。明確なスタンスを持つオーナーによる濃い接客を強みに着実にファンを獲得している。自身のノウハウをより若い世代に還元しようという考え方も共通している。

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「ワガママトウキョウ」 コロナ下でも成長 予約制で高濃度な接客

 コロナ下でも売り上げを伸ばし続けるメンズセレクトショップ「ワガママトウキョウ」は、立ち上げから3年で売り上げ1億円を達成した。18年12月に東京・渋谷の奥の細い路地に半地下の店舗を構えた。中村勇貴代表(90年生まれ)は「99%が無関心でも1%の人に深く刺さればいい」というスタンスを貫く。

「1%の人に深く刺さればいい」と中村代表(ワガママトウキョウ)

 転機となったのは20年11月から来店予約制に切り替えたこと。コロナ下の消費動向にフィットし定着した側面もあったが、コロナ下だから実施したわけではなく、開業した当初から考えていた理想的な店舗運営なのだ。予約制で来店してもらうことで、「他の客を意識せず、焦らずじっくり洋服と向き合える。事前に見たいと言われた商品のみを提案しているため、いきなり洋服の話に入るなど濃度の高い接客を徹底する」という。通常営業だったころは来店客がゼロの日もあったが、予約制であれば時間もフレキシブルに対応できる。仕事終わりなど夜11時の来店予約に応じることも。逆に予約がない時間は他の作業に集中できるため、仕事の効率も上がり、気持ちもリフレッシュできるという。

来店予約を開始した当初の店内(ワガママトウキョウ)

 あえてハードルを高くした店ではあるが、固定的なファンだけでなく、新規客も獲得できている健全な状態だという。それにはインスタライブを軸にしたデジタルツールを駆使したファン作りも欠かせない。ライブ動画で服の質感までリアルに伝えるとともに、ユーチューブのアーカイブから自店の認知度を高めることは常に心掛けている。

 来店客の買い上げ比率は9割と高く、「予約制への切り替えも間違いなかった」と確信した。21年(1~12月)の売上高は前年の6000万円から大幅に伸び1億円を超えるまでに成長。自分のような業界に大きな実績を残した有力者でもない、無名の個人が達成できたことは、これからの若い世代にも夢が持てる業界だと思う。自分の感性を信じてやり方でチャレンジしてほしい」(中村代表)と次世代にエールを送る。

 ただし、「前年実績に縛られ、売り上げをどんどん拡大していくことはない。スタンスも変わらないので、仕入れたいものが少なければ予算も無理に増やさない。展示会の招待状も増えたが、自分からアプローチするブランドとしか取引はしない」と中村代表。扱うブランドは新興、有力問わず別注が基本条件。海外ラグジュアリーブランドのビンテージジュエリーや一点物の古着など服好きの心に刺さるものを揃える。客層の8割は30代以上で、服に〝投資する〟意欲の高い大人の男性。「コロナ下が続き、外出する服の需要とともに消費者の収入も減る現状で、ファッション市場では中間価格帯の商品はレッドオーシャンで激しいパイの奪い合いとなる。一方、二極化がますます進む。当初と同じでニッチでコアな客層を狙うことに変わりはない」と強調する。

「ムスターヴェルク」 2期目で1億円 口コミで顧客の輪拡大

 大阪・靭本町のセレクトショップ「ムスターヴェルク」は、20年春に期間限定店からスタートし、同4月末に常設店を開設。前期(22年1月期)の売上高は、前々期比約2倍の1億円(EC比率は38%)だった。気配りが利いていて、商品の知識も豊富な新宅勇也代表(91年生まれ)の接客が魅力。クチコミや紹介ベースで着実に顧客の和が広がっており、売上高に占める顧客比率はECを含めても7割を超える。今後は若い世代が「好きなこと、得意なことを仕事にできるように」と、同店の屋号をフランチャイズ店として分け与える形での開業支援を計画する。

「アパレル小売業のイメージを良くしていきたい」と新宅代表(ムスターヴェルク)

 「マーティー&サンズ」「ラキネス」「ナイスネス」「オールドホームステッダー」など、国内ブランドが中心に揃う。前期は客数が増え売上高が伸びた。客層は25~34歳が5割を占め、ファッション業界関係者などが多い。年間の平均客単価は5万8000円と高い。

 同店の強みは顧客比率の高さだ。それを裏付けるのが、新宅さんの丁寧かつ地道な顧客リストの管理。「特別なことはあまりしていなくて、基本的なことを毎日さぼらずに続けているだけ」と謙遜するものの、顧客リストの作成・更新は前職時代から長年欠かさずに取り組んでおり、現在も営業後に必ず行っている。頭の中だけでなく、文字などに残すことも記憶を定着させるための大切なポイントだ。

 例えば初めて来店し、何も購入しなかった客であっても、接客時にある程度会話をした場合は、その人のファッションの志向や身体的特徴などをリストに残しておく。もし再来店した場合には、それらの情報を元に接客する。顧客であればライフステージなども細かく記しておき、変化を先読み・意識した上で商品を提案するように心掛けている。緻密(ちみつ)な店舗運営は、「商品の仕入れから接客、ダイレクトメッセージなど、店のすべての業務を一人で完結しているからこその強み」でもある。

20年4月末にオープンした「ムスターヴェルク」。店舗面積は82.5平方メートル

 丁寧な顧客リストの作成・管理は、展示会で商品を仕入れる際にも生きていて、「あの人ならこの服が好きそうだな、気に入ってもらえそうだなというのが、色やサイズまで含めて瞬間的に思い浮かぶ」という。前期は、そうして仕入れた挑戦的な商品の消化率も高かった。前期の売上高は、期初の目標を大きく上回った。年商1億円という実績を元に、若手の開業支援に着手する。「自分とファッションの志向が近く、力を伸ばしていけそうだなと思う若い子に活躍できる場を作ってあげたい。同時に自分も一緒に成長していけたら」と考えている。23年秋頃には有望な若手にオーナーを任せるFC店としての新店を予定する。

 これまで個人事業主として店を運営していたが、3期目を迎えるにあたり、MWCとして法人化した。若手の開業支援以外では22年中にカフェの開業を予定しており、将来的には衣食住を提案する企業を目指す。ムスターヴェルク単店の23年1月期の年商は1億3000万円を目標とする。

(繊研新聞本紙22年2月17日付)

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