《視点》今に通じる民芸

2022/02/24 06:23 更新


 柳宗悦の没後60年を記念した「民藝の100年」展に行ってきた。民芸とは、1世紀ほど前に柳、濱田庄司、河井寛次郎らが日常の生活道具の美しさに注目して考案した美の概念。同展には各地で古くから使われてきた陶磁器や染織、木工などが勢揃いした。なかなかの盛況ぶりで、駆け込んだ最終日の会場ではファッション業界人もちらほら見かけた。

 御多分にもれず、私も民芸の奥深さにひかれている一人だ。土地の素材を使って昔から作られているものが醸し出す、無駄のない美しさ。長年使うことで艶を増し、生活になじんでいく。使ったことがないものでもどこか懐かしいのは、もしかしたらDNAに組み込まれた記憶なのかもしれない。

 同展は、ファッション消費の方向性を確信するきっかけにもなった。会場には、生活、ローカル、継承、手仕事という言葉が散りばめられていた。それは、近年のファッション市場のキーワードでもある。「愛着を持って長く大事に使う」という民芸の考え方も今に通じる。大量生産・大量消費とは対極にある生き方を、多くの人が求めているのを実感した。

 大切に暮らし、土地ごとの伝統に思いをはせ、作り手の生活を連想する。そういう豊かな時間に、人々は飢えている。

(規)



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