ライフスタイル提案は簡単ではない

2014/01/26 12:47 更新


過密市場で拓くファッションビジネスの未来ー2014年1月1日付け繊研新聞より

”いつ、どこで、誰と、何を食べるーこれがすべて”

 日本のマーケットは飽和状態だっていうのは、ずっといわれている。現在のオーバーストア状態や将来、人口が減少に向かうなどの要素を見ると、確かにそれは間違いなくそうだとは思います。でも我々のやっているブランドに関しては、まだ可能性がある。

 いろんな業態をやってきて、その中で成功も、失敗もして、経験を積んできた。そのプロセスを経たからこそ新しい市場が見えてきている。そういう意味で10~20年先を見据えて考えているつもりです。

 当社は、ライフスタイルを市場に提案しようとしてきました。最近になって、市場では服があって、雑貨も置く、そういうブランドや店の数も増えていますが、本当のライフスタイルって、そんなに簡単に表現できることではない。

 「いつ、どこで、誰と、何を食べるか」。少なくとも僕の中ではライフスタイルの意味するものって、この言葉がすべてです。場面や場所、相手しだいで、人の衣・食・住は変化します。誰と会うか、何を食べるか、シーンによって服だけでなくコスメも変わるかもしれない。家族、恋人、友人、過ごす相手で家に置く家具も変わるだろう。

 そういった、いろんな、いつ、どこで、誰と、何を食べるのか、をカバーするために業態を増やしてきたんです。当社の原点は「ハッピーライフスタイル」。それを様々な業態を通じて店の中にどう落とし込むか。それを最大のテーマとしてやってきた。今もそうです。とにかく、暮らしを深彫りしたい。

 僕自身、海外に行くと店を見るだけでなく、話題のホテルやレストランを試します。服だけじゃなくシーンやコミュニティーにビジネスのヒントが詰まっている。社内でもファッションだけでなく、政治や経済も、身の回りのあらゆることに興味を持つべきと言っています。

 社員が集まって畑を作って、綿を栽培したりもしている。どうやってできるか知ることも大事だから。そこまでしないと我々のやっていることって分からない。人と会って、話すことも大事。カフェ・カンパニーの楠本(修二郎社長)さんやトランジットジェネラルオフィスの中村(貞裕社長)さんとよく話をする機会があるんですが、こういう人たちは、日本の暮らしについて本当によく考えている。刺激を受けます。

”恐れずチャレンジ。現場も人も変化しなきゃ”

 当社が運営している各業態の店は、内装もMDも、売り場の大きさも見え方も毎年変わります。たとえば「ニコアンド」は今、店舗の大型化に取り組んでいますし、食や自転車、本、グリーンとかまだまだやりたいことがある。使うモノは同じでも、形は時代に応じて変わる。

 ずっと同じだとお客さんもやはり飽きるんです。テレビCM効果もあって、安心感を感じてもらえるお店である、という市場での認知も高まってきました。今も既存店売上高が前年実績を上回っているのは、その効果もあると思いますが、何より同じことをやり続けていないから。新鮮さを保てていることが大きい。

 社内で言い続けているのは、恐れずにチャレンジしろってこと。企業は大きくなると、決められたことをばかりするようなってしまう。社風が大事なんです。僕の仕事は、社員が何でも言いやすい雰囲気作りに尽きる。会議などで本当はどっちがやりたいか聞いたとき、こっちなんです、と言われたら、じゃ、それをやればいい、と言える風通しの良さを保つこと。

 当社は業態の大小を問わず、どんな小さいブランドにもディレクターがいます。いないと前年踏襲型になって新しいものが生まれない。クリエーティブな部分を大切にし、そこにお金をかける会社は伸びるし、残ると思います。クリエーティブであることは、変化に対応していく力がある、ということだから。

 逆にそういう部分を大切にしないと、我々の業界でやっていくのは難しいと思う。お客さんのニーズの変化に対応するには、現場も人も変化しなきゃいけない。変化していくことで市場によりよいものが提示できるんです。その積み重ねが結果的に会社を強くするし、新しいビジネスチャンスが見つかるきっかけをつかむことにもなるんではないでしょうか。

トリニティアーツ 06年設立。13年9月にアダストリアホールディングスグループに入る。「ライフスタイルを通して世界をハッピーに」が企業理念。基幹ブランドは「ニコアンド」「スタディオクリップ」。ほか「バンヤードストーム」「リーブルメゾン」「アンデミュウ」。今春には海外出店を視野に入れる新業態「ベイフロー」を出す。14年2月期予想は売上高377億円(前期比42%増)、期末店舗数275店。

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