【100周年を迎えた文化学園】創立100年のさらに未来へ 人と創造の力で文化を生み、社会を動かす

2023/06/23 06:25 更新


学園風景

 6月23日に創立100周年を迎えた文化学園。「服装の改良こそ、新しい日本の発展と文化の出発点である」と大正時代に創設以来、全ての人に教育と文化を広め、新しい時代と社会を創造する理想の実現を目指してきた。日本のファッション教育で中心的役割を果たし、国内外でクリエイターを輩出してきた文化服装学院、大学院博士課程まで持つ大学など、四つの学校で構成。ファッション分野で日本初の専門職大学院、様々な国の留学生などに日本語専門教育を行う外国語専門学校も有する設置校の多様さが特色だ。一人ひとりの学びの希望に応え、人と創造の力で文化を生み出し、時代を進め、社会に貢献する人材を育む場として、次の100年に向け持続的な発展を目指す。

《文化学園大学》文化学園理事長 清木孝悦学長 多様性尊重、学生第一の姿勢で


文化学園大学 清木孝悦学長

 建学の精神に「新しい美と文化の創造」を掲げ、1950年に文化女子短期大学として発足し、64年には文化女子大学(現文化学園大学)が開学。教育・研究の起点をファッションに置き、造形や建築、国際文化、観光など領域を広げ、約7万人の卒業生を送り出してきました。

 現在の教育の柱は、グローバリゼーション、イノベーション、クリエイションの三つに、新たに地球環境保全のためのサステイナビリティー(持続可能性)、ダイバーシティー(多様性)、多様な人々との共生の視点を加え、学生第一の姿勢で、教育研究力の向上に努めています。

 グローバリゼーションでは、ダブルディグリー協定を結んでいる浙江理工大学など3校を基点に、留学生の受け入れと教員の交流、学生の海外留学を推進。海外留学経験者、修士などの学位を海外で取得した当校卒業生や、外国籍の教員採用を強化。多様な価値観に触れ、学生同士が刺激し合える質の高い留学生の受け入れを促進し、留学生比率を約20%に増やす計画です。

 またイノベーションとクリエイション推進のため、新しい教育研究体制を構築します。専門科目に生かすことを念頭に、AI(人工知能)に関する総合教養科目を設置。3DCGを使ったクリエイションの教育実践に向けた研究も行う予定です。

 サステイナビリティーでは、ファッション産業の環境破壊や、海外の低賃金労働力への依存など社会との連関も学びつつ、持続可能な社会の実現を目指します。実習の授業で、地球環境保全もテーマに盛り込んで産学で連携し、学生の意識向上を図ります。産業界や他大学と連携して学内残布の製品化に挑戦し、アップサイクルした作品は外部イベントなどに出展します。

 学生の多様性を尊重し、個々の学びの意欲に応える教育として、25年度入学生から新たな履修の仕方〝副専攻〟を導入します。多様な領域を学べるように、2年次から希望者は所属学部学科の学び以外に、副専攻として他学部学科の授業を10単位程度、体系的に履修可能にし、修得単位は卒業要件に認定します。大学は元々、世界に開かれた場で多様性と密接不可分です。学生第一で個人の尊厳や個性を尊重し、個々の希望に応える教育を行い、多様な進路を選択可能にしていきます。

●文化学園大学 1950年「文化女子短期大学」として開学。1964年「文化女子大学」開学。2011年文化女子大学を「文化学園大学」に改称、12年から男女共学に。

〈学部・学科など〉服装学部、造形学部、国際文化学部、文化学園大学大学院

〈公式サイト〉https://bwu.bunka.ac.jp/


《文化服装学院》相原幸子学院長 技術の進化に合わせ新たな価値

文化服装学院 相原幸子学院長

 日本初の服飾教育学校として、1923年から30万人以上の卒業生をファッション業界に送り出してきました。文化式原型と立体裁断を組み合わせる独自の服作り、物作りの基本をまとめたファッション大系は当校の財産。目の前で先生の服作りを見て学ぶ手法に加え、コロナ下でオンラインで先生の手元を撮影して別教室の大画面で見たり、家で動画を見て復習できるようにし、進化させながらファッション教育を行ってきました。

 今後、強化するのはデジタル教育。デザイン画の練習やニットも手編みからの技術が身につくように、服作りの基礎教育にしっかり取り組みつつ、最新機器を使った教育も行います。今はデザイナーやパタンナーが、パソコン上でデザインする時代。ファッション工科専門課程のアパレル技術科3年次に来年度、「バーチャルファッションコース」を新設します。3D技術の基礎を学んだ上で、バーチャル空間でもファッションをクリエイトできる人材の育成が目的。新しい分野を学びたい他学科の学生も応募可能で、学生に1人1台の3D機器を用意します。

 デジタル化を進めるため、テクノロジーの進展に合わせて設備面も強化中です。今年度は島精機製作所の無縫製ニットの最新機器や、文化・服装形態機能研究所に新しいシルエッターを導入。技術の進化は止められないので、新たな機器を取り入れることで学生に備わる五感や能力を磨き、テクノロジーと競い合う中で新しい価値を生み出せる環境を整え、技術とともに学生と学校の成長を目指します。

 次の100年を作るため、100周年を機に、時代の変化に合わせた改革に着手します。伝統を守るためにも新しいことを取り入れ、変えていくことが、次の100年につながります。現在は来年度に向けて、カリキュラムと時間割の時間配分を見直し中です。変化の速さに対応するため教育内容を組み立てから考え直し、学外に出てリアルなファッションや企業を研究できる時間も作り、授業と課題に追われて学生が疲弊している現状を改善。自ら考え、デザインを生み出すクリエイション力が身につくようにしたいです。

 文化祭のショーも今まで以上に学生主体に変更。デザインや縫製担当者の名前がわかるように明示し、前日のリハーサルに企業を招き、ショーの協賛企業と学生が接点を持ち、就職など次につながる工夫をします。企業との協業も強化し、素材提供企業や学生の就職試験時に作品の貸し出しを開始。失敗を恐れず、変革に挑戦し続けます。

●文化服装学院 1923年「文化裁縫女学校」として、わが国初の洋裁教育の各種学校として認可。1936年文化裁縫女学校を「文化服装学院」に改称。

〈学部学科〉服飾専門課程、ファッション工科専門課程、ファッション流通専門課程、ファッション工芸専門課程、Ⅱ部(夜間部)

〈公式サイト〉https://www.bunka-fc.ac.jp/


《文化外国語専門学校》古屋和雄学校長 国境を越え、地球市民を育成

文化外国語専門学校 古屋和雄学校長

 「留学生10万人計画」など、政府の海外留学生の受け入れ拡大政策を受けて80年に開校。文部科学省からの委託を受け、日本語科では82年から、専門学校に進学予定の国費留学生の日本語教育を担当しています。国費留学生を預かる水準の高い学校として私費留学生も集まり、300人近い学生が在籍。これまで世界の98の国と地域から、4月までの累計で9174人の留学生を受け入れてきました。

 日本語科のほか、日本語教師養成科、日本語通訳ビジネス科の3学科で構成。各科で日本語、日本語教師養成、通訳・翻訳やビジネススキルなどを養成する独自の教育課程を編成し、日本語科では専任教員が作成、出版する日本語テキストを使い、日本語の水準別に十数クラスに分けて少人数教育を実施。到達度テストを頻繫に行ってクラスを入れ替えるなど、きめ細かな教育が好評です。在校生の3分の1が文化服装学院、文化学園大学、BFGUに進学しており、優秀な学生を学園内に送り出すファッション人材のハブの役割も果たしています。

 建学の精神は「国境を越えて理解し合うためのコミュニケーション力を、日本語を通じて養う」です。日本語を学びながら相手に対する優しさ、思いやりやいたわり、言葉だけでなく根っ子にある日本文化を理解してもらいたい。世界各地で戦争が行われている時、自分の言いたいことを言うだけでなく、人の言葉をきちんと聞き、武力でなく言葉の力で互いに話し合い、意思疎通する力を養ってほしい。コミュニケーション力を身につけ、民族や宗教、国境を越えた地球市民になり、自然に対する謙虚さをもち、世界の平和と地球環境に貢献し、地球を豊かにしていってほしいですね。

 近い将来は100を超える国や地域から、1万人以上の留学生の受け入れを目標に、グローバリゼーションを実践します。新たにダイバーシティー(多様性)も目標に加え、多国籍な環境を生かしてボーダーレス、エイジレス、バリアレス、ジェンダーレスな四つの障壁を無くした教育を行います。今年から支援体制を整え、視覚障害のある学生も受け入れ、多様な人に開かれた学校として新しい魅力を開発しています。高い専門性のある学校としてレベルアップし、多くの学生を受け入れていきます。

●文化外国語専門学校 1980年「文化外国語専門学校」開校

〈学部・学科など〉日本語科、日本語教師養成科、日本語通訳ビジネス科

〈公式サイト〉https://www.bunka-bi.ac.jp


《文化ファッション大学院大学》櫛下町伸一学長 いち早く時代の流れを捉える

BFGU 櫛下町伸一学長

 時代の流れとともに起こるのがファッションで、流行とビジネスの流れを捉えることが重要です。文化学園の設立母体となった文化裁縫女学校が、日本初の洋裁教育の各種学校として認可されたのは1923年。和装から洋装に変わった時期に、時代の流れに合わせて開学しました。家庭でのミシンの普及率が約6割となり、家庭洋裁が主流となった50~60年代には、型紙と縫製に関する教育を拡充。70~80年代はDCブームで既製服の時代となり、生産の流れを教育に取り入れ、バブル崩壊後のSPA(製造小売業)時代はMDやマーケティングについて、さらに深く教えるようになりました。

 文化ファッション大学院大学(BFGU)は06年に開学。SPA全盛の下、ビジネスが分かるデザイナー、クリエイションが分かるマネジャーを育ててきました。20年代に入りAI(人工知能)の力を借りる時代になり、ファッションにも新しい波が来て、学校も教員も変換期を迎えたと感じます。今はデザイナーやパタンナーのあり方、定義が変わる潮目です。AIは過去の事例やデータを組み合わせることは得意ですが、新しいものは生み出せない。ファッションでAIを使うためには、基本的な服の知識を持ち、著作権などについて判断し、新しい表現を考える力が必要です。デザイナーやパタンナーは創造力を養いつつ道具としてAIを使いこなし、ファッションの意味付けや、嗜好(しこう)性を考える必要が出てきました。90年代からの失われた30年間は、経済が停滞してSPAが台頭。市場調査による計画的な物作りで企業が注目されましたが、今後は人の能力とAIの共存が試される面白い時代になります。

 新しいものには不安やリスクを感じるし、初めは問題や課題が出て混沌(こんとん)としますが、AIは進化するはず。慣性という大きな時代の流れに逆らえない中で、いち早く時代の流れを捉え、教育に落とし込み、新機軸を作れた学校が生き残っていく。ファッション領域でAIを活用し、エンジニアらと協業する素地を養うため、後期にAIとメタバースの新講座を設けました。今春の卒業生は3Dモデリストやエンジニアになったり、メタバースがテーマの修了論文を書いた人も多い。移ろうものを捉える感覚に優れている学生の能力を伸ばし、AIを使いこなす人材を育てていきたいですね。

●文化ファッション大学院大学 2006年 ファッション分野で日本初の専門職大学院「文化ファッション大学院大学」開学。

〈学部・学科など〉ファッションビジネス研究科、ファッションクリエイション専攻、ファッションマネジメント専攻

〈公式サイト〉https://bfgu-bunka.ac.jp



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