「キアレッタ」前野いずみさん ユニバーサルファッションへの理解を進める

2024/09/18 12:00 更新


前野いずみさん

 「着ることによって生きる意欲が湧く服」――ユニバーサルファッションを、こう形容するのが、自身のブランド「キアレッタ」を通じて長年実践的な洋服作りを行ってきた前野いずみさんだ。一般的にユニバーサルファッションは、高齢者や身体障害者など、体の自由が利きにくい人が健常者と同様に着こなしを楽しむ洋服と考えられがちだが、さらにポジティブな発信を続けている。

(浅岡達夫)

 最近、福山市立大学教育学部で家政学を専門に研究している正保正恵さんと共著で『想いを伝える布仕事~背守り刺繍とユニバ―サルファッション』と題した本を執筆した。出版元の大修館書店は「これまでこのようなユニバーサルファッションを具体的な表現や事例で語った本は無かった」として、初版で2500部を刷った。

 瀧定(現瀧定名古屋)や宇仁繊維など生地コンバーター勤務を経て、高齢者向けファッション「キアレッタ」を創業。素材選びからパターン作り、洋服の細部にわたるきめ細かな配慮を作る洋服に込めてきた。数々の企業や団体との協業やコンサルティングにも関わってきた。

昭和レトロさも

 ユニバーサルファッションの主戦場はますます増え続ける高齢者マーケット。前野さんは、「高齢者に向けた洋服の最大のポイントは、着ることで生きる意欲が出ること」とする。ラグラン袖や伸縮性のある生地使い、大きいボタンとボタンホール、前と後ろの身頃が同じデザインなど、高齢者向けのファションにはコストや手間のかかる要素が多い。

 高齢者向けのファッションには、多くのアパレル企業が挑戦してきたが、ビジネスとして軌道に乗らないケースも多かった。「見映えや外観など、簡単にできるユニバーサルウェアはない。高齢者は、思い出の洋服と出合って懐かしさや生きる意欲を思い起こす。今の流行を追わず、昭和レトロなスペックを盛り込むことも必要。高齢者や身体障害者の思いを理解できなかったことが大きい」とする。

家政学を広げる

 正保教授は福山市立大学で行われた講演会で前野さんと出会った。「家政学で必要なことは子供、家族など様々な人への思いを込めてお世話すること。そこには高齢者など介護を必要とする人も入る」と考えていたのが正保教授。「ユニバーサルファッションで必要な人への配慮を理解し、洋服作りで事例を多数持っている」前野さんとの共同ワークで「家政学の広がりが可能になる」と考え、共同執筆したものだ。

『想いを伝える布仕事』(大修館書店)

 今後、「この本は家政学の教本として学校や図書館、関係部署へ幅広く提案される。高齢化が進む日本で、着る人にとって快適なユニバーサルファッションが広がる」と期待している。



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