在館者の保護、損傷次第 行政と事前協議を
二次災害を懸念
今回の震災では、帰宅困難者への対応で、被災地である仙台と首都圏との対応に差が表れた。首都圏店舗は利用者のみならず付近の帰宅困難者も受け入れるところがあったが、より被害が甚大だった仙台の店舗では、建物のダメージが大きく入館を禁止せざるをえなかった。停電に伴い各種設備が停止していたほか、陳列棚の転倒で落下物が散乱し、スプリンクラーの破損で大量の漏水もあり、二次災害の恐れがあったためだ。
今後、有事の際には行政から百貨店に在館者の一時保護や帰宅困難者の受け入れを求められる可能性がある。しかし、首都直下型地震が発生した場合、インフラだけでなく店自体も大きな被害を受けることも考えられる。大型施設として公共的な役割を果たせるよう検討するものの、それには建物の安全性が確保されていることが前提にある。認識を事前に行政とすり合わせておく必要がある。
設備故障の際は…
館内の設備が地震や停電により故障・破損した場合の対応策も検討事項だ。
仙台市内の複数店舗では一部の出入口や搬入口のシャッターが手動でも閉鎖できない状態になり、安全保安上の対応策として、警備安全担当者が徹夜で警戒に従事した。立体駐車場が入出庫不能になった店舗では、当初、業者から復旧に約1カ月を要するとされたが、お客から「消息不明になった身内捜索に一刻も早く自動車が必要」と出庫を求められ、迅速な対応を要請し、1週間後に出庫可能になったという。
いずれも、設備業者と日ごろからの連携体制確立の重要性を示している。出入口・搬入口が閉鎖不能になった場合に備え、セキュリティ対策も事前に講じておく必要がある。
また、地震発生時には二次災害防止のため、非常階段の使用が原則となる。しかし、首都圏の一部店舗では、非常扉の開放に手間取り、不安を感じた待機客の一部が運転中だったエスカレーターで下層階に移動したケースがあった。日ごろから非常扉の開閉方法を教育・訓練しつつ、待機客に対してケアできる声かけや情報提供を行うことが重要としている。
安否確認と備蓄品
従業員の安否確認には、複数の確認手段の確保と、連絡方法のルール化が必須だ。
被災地百貨店では、お客を避難所まで誘導した社員や外商・サテライト店担当者、パート・アルバイト・取引先販売員への安否確認が遅れたという。名簿を逐次更新するとともに、点呼や電話連絡網、安否確認システムなどを組み合わせた実施可能な確認手段を複数、備えておきたい。連絡方法は、会社側から従業員へ確認の連絡をするだけでなく、従業員側からも自発的に報告することが求められる。
確保すべき備蓄品は、懐中電灯と携帯ラジオだ。特に懐中電灯は、多くの店舗で不足した。
仙台市内の百貨店では震災後2、3日、停電があり、非常用バッテリーが切れて以降、店内の窓がない区画では暗闇での行動を余儀なくされ、残留者の確認や安全確保に不安を感じることもあったという。
備蓄品を取り出しやすい所に置いていることも重要。今回の震災では、保管場所が高層階や屋上にあり、速やかに取り出せなかったケースが多発していた。理想はフロア単位で管理するとともに、非常時にも取り出しやすいようレジ横など手の届くところに置くことが重要だ。
耐震工事・大半実施
繊研新聞社ではこのほど、全国の百貨店に対し店舗の耐震工事の有無に関するアンケートを行った。回答のあった百貨店のうち、完了済みは31、未実施は3、実施中が2だった。改装を機に耐震補強工事を行う百貨店も多く、安全対策に万全を期する姿勢が伺えた。
ただ、築年数が異なる複数の建物を連結して店舗を構成している百貨店では注意が必要だ。報告書でも今回の震災でも建物の接合部分がゆがむなどの被害を指摘している。