【ファッションとサステイナビリティー】前・パタゴニア日本支社長の辻井隆行氏 「本質的な一歩を踏み出す時」

2020/05/30 06:29 更新


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《パイオニア・寄稿》本質的な一歩を踏み出す時 辻井隆行 前・パタゴニア日本支社長

 コロナ禍によってあまたの尊い命が返らぬものとなり、今なお、大勢の方々が苦しんでいる。心からのお悔やみとお見舞いを申し上げると共に、社会の一員として、一刻も早く事態が終息することを願う。一方、いずれ終息したとして、その先の社会は一体どうなっていくのだろうかという不安を抱えている方々も少なくない。その不安を突き詰めて考えれば、経済停滞による社会の機能不全にだけではなく、今、未来に向けた適切な一歩を踏み出さなければ、私たちは新たな脅威にさらされ続けることになるという憂苦の中に、その本質があることに気づく。

 多くの専門家が、私たちが生態系を破壊し続けた結果、ウイルスが寄生する野生動物と人間との生息圏が過度に近づき、未知のウイルスへの感染リスクが高まっていると指摘する。人間活動が引き起こしている危機は、パンデミックだけではない。世界中の科学者が、産業革命以降の急激な地球の気温上昇は、経済活動による二酸化炭素排出を考慮しなければ説明できないと述べている。

 日本でも、80年と比べて3倍近くにまで増えた自然災害は私たちの社会基盤を脅かし、18年には損害保険会社が支払った保険金が史上初めて1.6兆円を超えた。コロナ禍が終息したからといって、資本増大のために自然環境を犠牲にするような従来型の経済活動を加速させれば、新たなウイルスや災害の脅威にさらされるリスクが高まることは想像に難くない。

 アパレル産業は、世界の10%近い二酸化炭素を排出し、原材料調達のために貴重な資源を浪費し続けている。気候正義を訴えるZ世代は、大量生産・大量消費・大量廃棄という産業のあり方に嫌悪感を示し、彼ら、彼女らは、アパレルビジネスの多くが自然界や貧困層からの搾取の上に成り立っていると見なしている。国内ではまだ少数派だが、世界では何十万人もの若者が声を上げ始めており、早晩、その波は日本にも押し寄せると考えるのが妥当だ。近い将来の顧客であり、社員候補でもあるZ世代に、見せかけのサステイナビリティー(持続可能性)やグリーンウォッシュは通用しない。

 今の私たちは、緊急手術と体質改善の両方に取り組まなければならない重症患者のようなものだ。目先の問題を解決しても、本質的な課題への取り組みを誤れば、いずれ命が危険にさらされる。気候危機や資源枯渇という歴史的な局面の中で変化する「ヒト・カネ・モノ」といった資本の流れに目を向ければ、これまでの延長線上で成長することが難しいのは明らかだ。

 必要なのは断絶の進化と真のイノベーション。過去の成功体験を捨てることさえ出来ればヒントはあちこちに散らばっている。今こそ、短期的な対症療法だけでなく長期的視点に立った戦略に向けて舵(かじ)を切る時だ。アパレル産業の持続可能性は、その両方によってのみ切り開かれる、とコロナ禍に諭されている気がしてならない。

つじい・たかゆき 68年生まれ。早大大学院社会学科学研究科(地球社会論)修士課程修了。99年パートタイムスタッフとしてパタゴニア東京・渋谷ストアに勤務。00年正社員。09~19年まで日本支社長。

(繊研新聞本紙20年5月28日付)

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