【ファッションとサステイナビリティー】都内の中高生による「やさしいせいふく」プロジェクトのメンバーに聞く

2020/08/05 05:02 更新


 若い世代の方が環境や社会問題に関心が高いといわれる。気候変動やSDGs(持続可能な開発目標)、貧困問題などを当たり前のように学ぶ世代は、洋服に対しても、物作りの裏側にある負の部分にも着目し始めている。問題視するだけでなく、自分たちの身の回りから解決しようと、自ら動き出す学生も出てきた。そのひとつが、「自然にやさしい」「人にやさしい」「世界にやさしい」の三つを理念に、「ありがとうと笑顔が生まれる服作りを世界中に浸透させることを最大の目的としたプロジェクト」としてスタートした「やさしいせいふくプロジェクト」(旧プロジェクト名「学生ブランド作っちゃおうぜ!」)。東京の中高生が中心となって取り組んでいる。今年の年明けからプロジェクトを本格始動し、企業向けプレゼンテーションや取り組む企業の公募・審査を経て、実際の物作りや次世代へつなげる組織作りへと歩みを進めている。プロジェクトにかかわる3人の高校生に、ファッション業界の課題やプロジェクトの今後を聞いた。

左から東郷さん、島崎さん、坂本さん

◇安いものが怖いと思うように

 ――プロジェクトに参加して学んだことは。

 島崎 元々ファッションにはそれほど興味なかったけれど、プロジェクトに参加して学ぶことで、ファストファッションへの問題意識が向くようになり、罪悪感も感じるようになりました。

 坂本 小さい頃、母と服を買いに行っていた店は、いつもセールをしていました。安いなと思ってはいましたが、服作りの裏側に何があるのか、なぜ安いのか、疑問に思うことはありませんでした。プロジェクトに参加し、あまりに安い物が怖く思うようになりました。今は買いたい服がなく、ほとんど服を買わなくなりました。今ある服を長く着たいと思っています。

 東郷 祖母のセーターを孫も受け継いで着るような、物を大切にする家庭で育ちました。とはいえ、友達や流行に合わせて、好きでもない物も買っていたこともあります。値段とデザインしか気にせず、シーズンごとに捨てる服も多かったです。今は、必要以上に服を買わなくなりました。ラベルに表示されている素材にも意識が向くようになりました。

 ――ファッション産業の問題点とは。

 坂本 ファッション業界だけが問題だとは感じていません。高度経済成長を経てグローバル化が進んだ経済構造の中で、ファッション業界もそうならざるを得なかった背景があると思います。ただ、ファッション業界は環境への負荷も大きい。また、このプロジェクトに参加し、サプライチェーンの流れやその構造が変わらずに続いていることを知ったことは衝撃でしたし、問題だと感じました。

 川上から川下までの重層化した構造の中で、川上にお金が流れないことも問題です。

 東郷 誰が悪いという問題ではなく、システムが悪い。誰がどこで作ったのか生産の透明性がないこともダメだと思います。店側も買う人に伝えないから、消費者は分からない。知らされていないから、劣悪な環境や安い賃金で働いている人が作ったと考えません。買う人は永遠に知らないままだというのは、ヤバイいなと思います。

 島崎 (プロジェクトを一緒に進める企業を選定する)審査会を通して思ったことは、「やはり男の人が多いんだな」でした。企業全体では女性比率が高くても、プレゼンテーションをする人や代表の人は男の人が多かったです。プレゼンテーションでは、企業ごとの得意不得意、テレワークの慣れ(注・審査会はオンラインで行われた)にも企業ごとに色が違うことも分かりました。

 ――企業プレゼンテーション(審査会)に参加して感じたことは。

 島崎 1人や数人と話して、その会社全体の判断をせざるを得ないのが難しいと思いました。本心なのか、言わされているのか、会社の経営理念を理解して誇りを持って働いているのか、見抜くのが難しいと思いました。きれいごとだけではやっていけないんだろうなと思いました。いずれにせよ、私たちがしっかりと理念を持った上で企業と話し合わないといけないし、自分たちはぶれてはいけないと感じています。

 坂本 大人の社会は守らないといけないものが多すぎて、本音で話せなかったり理想を押し通せないこともあるでしょう。でも、学生の僕たちは失うことがほとんどない。きれいごとはきれいごとで言っていこうじゃないか、あるべき姿はこうではないかというメッセージを伝え、成功例を作っていけたらと思っています。

 東郷 学生の立場でできることは少ないと思っていましたが、学生という時間が良いものだと思えるようになりました。やりたいこと、好きなこと、いろんなことに首を突っ込んでみたり、自分の将来像を固めるためにはいい時間だと思いました。

1月に開いた企業向けのプレゼンテーション

◇実現するには組織作りが大事

 ――プロジェクトは今後、どう進めていくのか。

 坂本 学生の団体は一般社団法人化を予定しています。法人格を持ち、企業と対等にやりとりできるようにしたいと考えています。物作りに関しては、どんなブランド、どんな製品を作りたいのかというニーズ把握から、プロモーションなどプランニングをしっかりしたいと思っています。プランニングにも企業の知見や経験を借りたいと思っています。

 身の回りにあるものから変えようと制服に着目したわけですが、制服そのものは参入のハードルが高いと感じています。変えるには年単位の時間が必要になります。ですから、普段着たり学園祭などで着るTシャツなども制服のひとつととらえ、ハードルの低いところから始めたいと思っています。

 島崎 私たちも組織をしっかり作らないといけないと思い、事業計画・人事・財務・総務・広報・企業対応という六つのセクションを作り、責任者を付けました。

 ただ、運営委員は高校3年生と2年生が多いです。私たちが目指す「誰もが笑顔になれて、ありがとうがいえる服作り」の理想を実現するためには時間がかかります。元々は19年のアースデーから始まった集まりで、知り合い同士だからこそ円滑に進んできました。いまSNSやHPで新メンバーを募集しています。長い時間をかけても理念を実現するために、新しいメンバーに世代交代や技術継承していきたいと思います。

 ――家族や友人への影響は。

 島崎 実は発信することが苦手で、自分でも課題でした。このプロジェクトを始めて、仲間もいて、少しだけ自信が持てるようになってきました。家族や周りの人にも少しずつ話せるようになり、理解してくれるようになりました。身近な人から根を広げていけたらと思っています。

 坂本 学校の友達は理解してくれないのではと思いましたが、SNSで発信すると、「やさしいせいふく」のアカウントをフォローしてくれる友達がいたり、興味を持ってくれているなと思います。

 東郷 今でも曾祖母が作ったセーターが出てくるような、物を大切にする家庭で育ったので、活動について応援してくれています。

 学校で話すことはないですが、SNSで発信したら「すごいね」と言ってくれる友人もいるし、「興味持ってたけど言えなかった」という友人もいました。中にはプロジェクトに参加したいと相談してくれる友人もいます。

◇自分がなんとかしなくちゃ

 ――若い世代の方が環境問題やエシカルに興味関心が高いといわれます。

 島崎 受験という存在が大きくて、興味があっても踏み出せない、興味があるけど時間がない。やりたくても実行できない人もいるんじゃないかと思います。

 東郷 服の生産背景にある社会問題を知り、衝撃を受けました。その衝撃から、「自分がなんとかしなくちゃ」と思いました。私は「自分が」を大事にしましたが、「何とかしなきゃ」は多分、みんなが思うことです。なんとかなるかな、誰かがなんとかしてくれるかな、と。ただ、「自分が」という思いが起こったことで、新しいアイデアやプロジェクトが生まれていくのだと思います。

 坂本 部活やほかにいろんな興味・関心があり、「自分でなんとかしたい」と思える人は一部かもしれません。ただし、気にかけている人、応援してくれる人、暖かく見守ってくれる人とをファンやサポーターとして、良い仕組みが作れたらと思います。自らが参加しなくても、否定する人はいないのではないのでしょうか。

 島崎 オンライン審査会で行った、事前にウェブ会議を重ね、アジェンダを立て、議事録も書いてという流れを、部活にも活用しています。逆に部活で学んだことをやさしいせいふくで生かしています。相互でよいところを使い、高め合えるようになっています。勉強でもやさしいせいふくで学んだことが生きています。

 東郷 このプロジェクトが本格化した時期とコロナが重なりました。パソコンを使う機会も増え、自分の考えを文章にできるようにもなりました。

 好きなこと、勉強、こうした活動を並行してやっているので、どれものめりこみ過ぎず、距離感が上手に取れていると思います。そこで生まれた人とのつながりも生きています。

 坂本 このプロジェクト以外にも、好奇心のままにいろんな活動をしています。この先に何を学びたいのか、将来はどうするのか。考えは変化しますが、自分と向き合うためにも大切な時間だなと思います。

■出席者

東郷 結さん  都立武蔵高等学校1年

島崎 恵茉さん 都立武蔵高等学校2年

坂本 亮さん  国立筑波大学附属駒場高校2年


やさしいせいふくプロジェクトとは?

 19年のアースデーを機に、ファッション産業のサプライチェーンや素材の裏側を知り、持続可能な学校服を作るプロジェクト「学生ブランド作っちゃおうぜ!」を立ち上げ。20年1月に一緒に取り組む企業や団体を募集するプレゼンテーションを行い、「やさしいせいふく」プロジェクトと名称を変え、今春に学生による選考会を実施した。

 事業の方向性や物作りなど商品開発などでプロジェクトにかかわる「パートナー企業」には、ケケン試験認証センター、タキヒヨー、ヤギを選定。制服以外の製品開発やその他アドバイスなどを提供する「アドバイザー企業」には、カケンテストセンター、カジグループ、新藤、大正紡績を選んだ。

◆やさしいせいふく公式ホームページ https://sites.google.com/view/schoolstrike-for-textile

◆ツイッター@official_schbra

◆インスタグラム@schoolstrikefortextile


(繊研新聞本紙20年7月28日付)

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