オーダージーンズを手掛けてきたHaruhito(ハルヒト)代表の小西健太郎さんは、岡山県倉敷市の児島に新しい活動拠点となる「HOME BACE」をオープンした。生産現場が通路越しに見えるパブリック感覚な施設で、随所にアート作品も配したユニークな施設だ。
(山田太志)
【関連記事】ハルヒト、倉敷に物作りと情報発信の拠点を開設 全国から人が集まるパブリックな施設を
15歳で名古屋へ
中学を卒業後、単身名古屋へ行った。15歳からアパレルショップの販売員を7年経験した。23歳の時に縫製を学ぼうと一念発起、中国デザイン専門学校へ。その後、兵庫県のアトリエを本拠にオーダージーンズ事業を立ち上げた。価格は8万5000円(税抜き)。年間約200本という生産量を崩さず、一本ずつ丁寧に作るのがスタンスだ。自社の製品だけでなく、企業ユニフォームのデザインから製造、同じくセレクトショップのオリジナルアパレル部門の企画製造からブランディングなど幅広く事業を展開している。
岡山県は祖父母の故郷であり、特に倉敷市の児島地区はジーンズの産地である。この2年ほど場所を探し続け、巡り合ったのが、唐琴地区にある旧学生服の倉庫だった。「きれいな海と山に囲まれた唐琴。児島の産地に近いが、自然に恵まれた場所で、ゲストにゆっくりとした時間を過ごしてもらえる」。長い通路をそのまま生かした施設に仕上げ、「訪れたゲストが職人たちの物作りの現場をアクリル板越しに見ながら通り抜けられる廊下ってそう無いでしょう」と笑う。
「この町は、ジーンズや学生服を中心とした優れた技術、伝統がある。ただ、クライアントやエンドユーザーが本当に生産現場のことを理解してくれるのだろうか。工場に足を運んでもらい、作り手とクライアントの距離感を縮めて互いの理解を深めていきたい。そして自分たちの商品を売るだけではなく、素晴らしい技術を持っているけれど、世に発信することを苦手とする産地の職人さんに標準を当てHOME BACEを舞台に、産地の持つポテンシャルをほんの少しでも外へ発信する役割を担えれば」
若い世代が笑顔で
ファッションに限らず、様々なアーティストや他業種の人々など、志のある人たちが集まり、楽しみながら笑顔で仕事をすることを大切にする。小西さんは35歳、スタッフや周りに集まる人たちの大半が20代後半から、30代だ。HOME BACEに参画するテトラは16年に起業、夫婦で裁断・縫製工場を営む。「YUKARI MORITA」を手掛けるデザイナーは専門学校時代の友人にもあたる存在だ。
「若い世代が中心になって、既存の枠組みにとらわれず、新しいことに挑戦していきたい」
4月末のオープングには、1日で全国から100人以上が集まったが、驚いたのが来場したほとんどの人が東京を含む県外から集まっていたこと。小西さんの交友関係の広さを感じた。また、来客一人ずつ丁寧に頭を下げながら、談笑する小西さんの姿も印象的。若くから販売の第一線で仕事をしてきた小西さんの人柄なのだろう。
もちろん、新たな拠点をオープンし、関わる人が増えてくれば、相応の資金も掛かってくる。24年はHOME BACEの立ち上げで一つの節目を迎えたが、小西さんの心はもう25年を向く。「近い将来、まだ発表出来ていない今も水面下で仕掛けている様々なプロジェクトを一つずつ丁寧に発表していきます」とにこやかに締めくくった。