【記者の目】繊維業界全体で循環型経済実現 個別企業の取り組みだけでは限界 消費者から共感されるビジネスへ

2021/10/11 06:29 更新


 地球環境に配慮した素材の活用や取り組みが事業を行う上で不可欠になってきた。「日本ではまだまだ」といった声も多いが、世界の潮流は大きく変わり、すでに取り残されぎみだ。国内でも環境教育を受けた若い世代が有力な購買層になり、その数は今後さらに増える。そうした層に支持、〝共感〟してもらえるビジネスの形態、商材の準備は整っているだろうか。

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アライアンスを機に

 大量に作り、販売し、廃棄するビジネスモデルは評価されないだけでなく、すでに成り立たなくなってきた。無駄の塊だからだ。理想の一つは、必要な物を必要な分だけ作り、使い古したら再生し活用するサーキュラーエコノミー(CE、循環型経済)の枠組み。パリでは、50以上の企業やクリエイター、非政府団体などで構成するアソシエーション「パリ・グッド・ファッション」に百貨店のギャラリー・ラファイエットグループやインナー、シューズ企業、2次流通プラットフォーム、合同展などが参画し、環境負荷を軽減する取り組みが進む。店舗に回収ボックスを設置。回収品の状態により、リサイクル、修繕、団体などに寄付し、梱包(こんぽう)材削減などにも取り組む。日本でも様々な取り組みがあるが、各企業や団体でできることには限界があり、成果が限られていた。

 そうした中、日本でも団体や企業が連携し、サステイナブル(持続可能)な取り組みや業界課題に取り組む動きが出てきた。5月には、持続可能なコットンへの理解の広がりと利用促進を目指す「日本サステナブル・コットン・イニシアチブ」(JSCI)が発足。8月には持続可能なファッション産業を目指すアライアンス「ジャパンサステナブルファッションアライアンス」(JSFA)が創立された。サステイナブルな産業に生まれ変わるには、同業他社やサプライチェーン含め業界全体で取り組む必要がある。そうした活動のベース、旗振り役となるイニシアチブやアライアンスができたことの意味は大きい。

 作り過ぎの抑制や循環型経済を実現するには、業界全体の動きにすることが重要。繊維、ファッション業界が一体となり取り組んではどうか。

大手小売りが鍵

 再生ポリエステルなどリサイクル原料の活用が進んできた。中でも廃棄されたペットボトルを再活用するリサイクルポリエステルを使った商材は、ファッションアイテムに広がってきた。しかし良い原料は限られており、調達面に課題がある。さらに飲料メーカーはペットボトルを再生し再利用するCEを本格化させる。今後さらに良質な原料を大量に調達、確保することが難しくなる可能性が高い。

 そこで期待されるのが廃棄された衣服などをリサイクル原料として活用し繊維製品に再生する「繊維to繊維」の拡大。しかし衣類の回収やコスト、リサイクル技術の確立などハードルは高い。難度は高いが繊維to繊維に挑戦し、産業内で循環、完結する仕組みができる意義は大きい。そのためには回収の仕組みが重要で、特に大手のアパレル、小売り企業の参画が鍵になる。多くの店に回収ボックスを置き、リユースしたり、再生原料として活用するなどの取り組みがエンジンになる。家庭ごみとして出される衣類の再活用も必要だ。

 回収した洋服を繊維原料に再生しようとしても、ファッション製品には様々な素材やパーツなどが使われ、一律にリサイクル処理できない。分別などが必要で手間もコストもかかる。そのためユニフォームなどでは回収、再生の道筋が付けやすいが、一般的な衣料では難しいのが実情だ。

 服の作り方も変える必要がある。長く使えるよう耐久性に優れた商品を作ること、回収、再生することを前提に、ポリエステル原料のみを使って作り、そこから回収、再生のサーキュラーエコノミーを実現していく方法もある。複合素材が増え、海外生地を使ったアパレル製品が多いため簡単ではない。しかし使う原材料のトレーサビリティー(履歴管理)の確保が不可欠になっていることから、商社などが回収、リサイクルを念頭に、商品調達、生産を行うことで実現できる部分も増えるはずだ。

 CE実現に向けた課題は山積みで、服の作り方、回収の仕組みや分別、コストの吸収、技術革新などどれをとっても簡単ではない。しかし繊維・ファッション企業が目指す大きな方向性はおおむね一致しており、課題、悩みも同じだ。アライアンスの設立などを契機に、参画する企業や団体などが増えれば、できることは確実に広がる。今こそ繊維・ファッションの循環型の取り組みをひとつずつ実現し、ビジネス、産業を変える時だ。繊維産業全体で取り組むことで大きく変わる。

このほど設立された団体・同盟

■日本サステナブル・コットン・イニシアチブ(JSCI) 持続可能なコットンへの理解拡大と利用促進を目指す。推進母体は、ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(ASSC=事務局)、テキスタイル・エクスチェンジ、フェアトレード・ラベル・ジャパンなど6団体。

■ジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA) 自然環境への悪影響など産業の課題解決や、大量生産・消費・廃棄からの脱却など繊維・ファッション産業の構造転換を目指す。正会員企業はアダストリア、伊藤忠商事、クラボウ、ゴールドウイン、帝人フロンティア、東レ、豊島、日本環境設計、ユナイテッドアローズ(8/19時点)。事務局は一般社団法人ユニステップスと伊藤忠ファッションシステム。


大阪編集部素材・商社担当 高田淳史

(繊研新聞本紙21年9月6日付)

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