通常であれば避けたい返品を、積極的に顧客に勧める通販業者がある。
ベルリンに本社をおき、靴と服を中心に扱うファッション・ネット通販のツァランドだ。2008年、当時20代の男性2人がネットベンチャーとして起業し、以来三桁台、二桁台の率で売上げを伸ばしている。
今年前半、利益も黒字に転じた。靴のネット販売に限れば国内最大手、ファッションを扱うネット通販の中ではアマゾン、オットーに続き第3位といわれている。またドイツ語圏を中心に、欧州15カ国で販売する。
取締役。ルビン・リッター、ダービット・シュナイダー(創業者)、ロベルト・ゲンツ(創業者)
ツァランドで注文した靴を前に「キャー」と叫ぶCM。話題になった
消費者にとってツァランド最大の魅力は、品揃えの良さに並び、送料無料、返品のし易さにある、といってよいだろう。少し前までテレビのCMでは「嬉さに叫べ。さもなくば返品」というキャッチフレーズが流れていた。
100日内であれば返品が無条件で無料だ。その上、返品のための用紙や送り主および宛先記載済みのシールまで商品に添えてあり、これを記入・添付し、送付されてきた箱を使い返品できるようになっている。
めぼしい商品を幾つか試し、納得した品だけを購入し、残りはさした手間もなく半機械的に返品すればよいだけ。郵便局に持参しそこで順番を待つ、というのが唯一の障害といえる。通常複数の品を試してから買いたい靴・服において、実際の店でなければ難しかったショッピング体験が、ネット通販でもできるようになったのだ。
商品に返品用書類一式が同封
該当番号を記入すれば完了の返品用の用紙(左側)と宛名シール(右側)
販売者の目からすればしかし、100日もあれば例えば結婚式やオクトーバーフェスト等特別なイベントのためにドレスや靴が注文され、使用された後で戻ってくる、といった権利濫用リスクがある。
実際にこの返品システムは「ツァランド・パーティー」なる現象をも引き起こした。主に10代の女の子たちが、各自好きな服を注文し友達同士で持ち寄り、ホーム・ファッションショーを楽しむ、というもの。当然ながら殆どの服はパーティー後に返品される運命にある。
ちなみにドイツでは(またEU内でも類似したルール有り)、少し前まで消費者保護の観点から販売業者に返送費負担が義務づけられていた。
とはいっても無料返品保証期間は14日であり、また40ユーロ以上の商品に限られていた。通販における返品率は平均4割、利益を押し下げ、特に中小の通販にとっては重荷となっていた。ツァランドにおける返品率は5割とされ、損益分岐点の売り上げに達すのに時間がかかっている原因の一つとされている。
同規則はしかしながら最近見直され、通販業者の返送費負担義務はなくなった。財務上余裕のある大手通販はいまだに返品無料を維持しているが、積極的に取り組む業者はツァランドくらい。 アマゾンほか、返送費は負担しても、返品常習犯には販売しないようにする業者も増えているらしい。
フランクフルトにあるアウトレット
ツァランドはしかしながら従来の返品システムは同社のサービスの中核であることから変えるつもりはない、と表明している。
同社は実験的に返品用書類を商品に付けずに送るようにしたことがあるが、返品率は確かに下がったものの、売上げも減少してしまったという。一昨年ベルリン、今年フランクフルトに、リアルなアウトレット店がオープンした。ここでは返却品とみられる品が売れ残り品とともに30~70%引きで売られている。返品は不可。
市中心部から少し離れ若い人が多く行き交う地区にあるフランクフルト店を訪れてみると、ウィークデーにもかかわらず結構人がいた。返却品をリアルな店で安売りすることで返品による減益分を取り戻せるのか。この点に関する発表はまだ無いが興味が湧くところである。
フランクフルト在住。身長152cm。大きなドイツ人の中にいると小人のように見えるらしい。小回りだけは利くジャーナリスト兼通訳。ファッションからヘルスケアまでをカバーする。