9月米および独富豪投資家ニコラス・ベルクグリューンが、ドイツ百貨店の最高峰カーデーヴェー(ベルリン)をオーストリアの不動産投資会社に売却し、非難を浴びている。
ベルクグリューン氏。労組との対立を報道するSpiegel誌(2013年35号)から
ドイツでは過去数十年、百貨店の倒産が続き、今は2つのグループが残るだけだ。現存する百貨店はそれゆえカウフホーフかカールシュタットのいずれかに属する。カールシュタットも一度経営破綻している。
2010年ベルクグリューン氏(以下ベ氏)が全店と再建のための投資を引き受けることを約束し買収。一夜にして伝統百貨店と雇用を救った白馬の騎士として崇めたてられた。
ベ氏は博愛主義者とも称され、慈善事業に力を入れる一方、長期的視野に立ち、例えば、再生可能エネルギー事業等にも投資もする人物だ。カールシュタットにも持続可能な戦略に基づき投資がなされ再生するハッピーエンドを社員も一般市民も期待していた。が、投資も経営再建は期待通りには進んでいないようで、前年度の決算も赤字で終わった。
今回売却されたのは、カールシュタットのスポーツ部門28店とプレミアム部門の3店。
カーデーヴェーは後者の一つ。今回の売却をめぐり多くのメディアは「カールシュタット壊滅へ」(ベルリン地方紙ターゲスシュピーゲル)、「カールシュタット、そろそろ完全解体」(有力週刊誌フォークス)と悲観的な報道をした。遅かれ早かれ優良店はカウフホーフと合併し、残りは閉まる、というのが専門家の大方の予測だ。
ドイツきっての老舗高級百貨店。カーデーヴェー(ベルリン)
ベ氏は買収時に、カールシュタットをモダンでエキサイティングにしたい、と抱負を述べた。元々地味だが良い物を揃えていた。買収後、模様替えや品揃えの拡充などにより魅力を増した売り場もあるが、全体としては華やかさや新鮮さがまだ足りない感がある。
元々競合カウフホーフの近くにありながらやや立地に劣る、といった不利な条件下で、競合以上のことをやらないといけない。大規模な投資は必須だ。一方で利益がまだ出ていないことから投資が滞っている。加えてべ氏は身銭を切るということをしない。今年末には経営再建を指揮してきたジェニングスCEOが退く。投資を渋るベ氏との軋轢が原因だった、という噂もある。そんな中、やはりベ氏もただの投資家、といった風な失望の声が高まっている。
中道左派ツァイト紙はしかし、ベ氏のお陰でこれまでカウフホーフとの合併ひいては大量解雇が回避されている、と書く。また今回の売却益3億ユーロは残り約80店への再建に当てる、とベ氏は表明。短期的利益だけを追求する人物であったら「別の行動をとるだろう」とする。たしかに、優良店であるカーデーヴェーなら高値で売れるだけでなく、手離しても生き残れるだろう。競争力の弱いスタンダード店の方は売却益を使い価値を高め、それから売るなり何なりするのはクレバーだ。
収益が戻れば、カールシュタットひいては市場の競争が存続する可能性が高まる。雇用も守られ、倫理にも適う。他方、いずれは自然淘汰されそうな店があることも事実。売却益が実際にカールシュタットへの投資のみに使われるかを疑う向きもある。博愛主義的投資家の今後の動きが注目される。
フランクフルト在住。身長152cm。大きなドイツ人の中にいると小人のように見えるらしい。小回りだけは利くジャーナリスト兼通訳。ファッションからヘルスケアまでをカバーする。