企画、型紙、縫製まで自己完結
自ら型紙が引け、ミシンも踏める〝自己完結型デザイナー〟にとって、活動拠点が必ずしも東京である必要はない。服作りの基礎があれば地方からでも新たなクリエーションの発信は可能だからだ。
東京と適度な距離
埼玉県本庄市に自宅兼事務所を構える「イチマイルグラトリー」(グラトリー)の荒川典雄代表は「東京との適度な距離感がいいクリエーションを生む」という。片道1時間40分かけ東京と本庄を仕事で行き来するノマド的生活を続ける。
発想したのは「ノマドトラベルライン」。モバイルなデジタル機器を駆使した暮らしに合った服を提案する。「地方の人が全て大自然で遊ぶのが好きなわけではない。自分のようなインドア派にはデジタル機器は欠かせない存在」。同ラインには、それを活用した生活が送れる機能を盛り込んだ。
動きやすさとデザイン性を両立させる複雑で立体的なパターン設計が持ち味。ジャージージャケットの内側には、わかりやすく収納できるようにアイコンを付けた大小様々なポケットが付く。シャツの前立て裏にはスマートフォンクリーナーを備える。
もともと同ブランドは10年前に立ち上げた「イチミリ」というメンズカジュアル。一時期、群馬県の縫製工場と組んでいたが、独立して14年秋冬物から現在の形へと進化させた。5年前には直営店を開設。選んだ立地は群馬県高崎市の駅前だった。大企業は東京発信で地方へ拡散することがほとんどだが、逆に、東京にも直営店を出す計画がある。それでも「地元を離れることはない」と言い切る。
盟友とファン作り
12年前から仙台で地道にメンズブランド「タタミゼ」を作り続けるのはデザイナーの八重畑宰代表。当初はデザインから型紙作成、縫製まで全て一人でこなした。「地方の方が余計な雑音がなくマイペースで服作りに没頭できる。手仕事を多用し時間と手間をかけられる」という。
現在は卸し先も増え、サンプル製作までにとどめるが、帽子など小物は自分で縫製してしまう。若いころから好きだった昔のワークやミリタリーウエアを作り手目線で再構築したのがタタミゼ。「昔の服は全ての仕様やデザインに合理的な理由があり、単なる飾りではない」。八重畑代表は、そういう服作りを理想とする。パンツのウエストのボタン留めが三角形でアジャスター機能になっていたり、定番のダッフルコートの胸と中央にポケットを付けたりしている。
成長は地元の盟友にも支えられている。仙台でセレクトショップ「オンザアース」を運営する大西芳紀代表はタタミゼにほれ込み、自店で扱うとともに、国内はもとより海外の合同展などにも自社オリジナルブランドと一緒に出展するなど営業活動をサポートする。数少ない仙台発のブランドとして、今後もじっくりとファン作りに努める。(15/04/28 19229 号 1面)