《めてみみ》環世界

2022/12/07 06:24 更新


 「アンリアレイジ」の森永邦彦氏がよく言及するのが「環世界」という言葉。ドイツの哲学者・生物学者であるヤーコプ・フォン・ユクスキュルが唱えた学説がもとになっている。環境とは、全ての生物に等しく存在するのではなく、多様な生物が主体的に捉えている独自の世界があるという説だ。

 岩波文庫から出されているユクスキュルの『生物から見た世界』は、学術的な内容だが、様々な虫たちの事例が実験結果を交えて丁寧に紹介されている。人間が捉える世界と、多種多様な虫たちが知覚している世界が異なることに改めて驚く。

 最新の研究では、虫たちだけでなく動くことのない樹木や植物も様々な知覚を持つことが分かってきた。ある昆虫が樹木の葉を食べ始めると、その木は特定の物質を放出し、周りの木々にその虫の情報を伝達する。情報を受け取った木は、すぐに昆虫の嫌がる物質を内部で生成し、自らを守る行動を取るようである。

 ユクスキュルの学説が世に出たのは、90年近くも前のこと。その後の人類は、環境破壊や戦争など、いかに人間本位、自分本位の独善的な歩みを続けてきたことだろうか。自然界を含めた多様性を大切にすること、物事を鵜呑(うの)みにせず様々な視点で捉え直してみること。ファッションビジネスでも、ますます重要なキーワードになってきた。



この記事に関連する記事