半導体受託製造の世界最大手、台湾のTSMCが熊本県で新工場建設を急ピッチで進めている。投資額は1兆円を超え、2000人近い新規雇用を生む巨大プロジェクトとなる。完工は24年末の予定だが、同社以外にも国内半導体メーカーの熊本進出がうわさされ、近隣の工業用地や住宅用地の地価上昇率は全国トップクラスだ。
世界の貿易環境が不安定感を増すなか、産業の根幹を支えるこうしたハイテク産業が国内で増強されることは、経済の安定保証面から喜ばしいことである。工場での直接雇用だけでなく、様々な周辺産業への波及効果も大きいだろう。疲弊の続く地域経済にとっては、恵みの雨となる。
とはいえ、周辺の既存工場、特に中小企業にとって、人材不足は必至となる。新工場は、繊維関連や小売業に比べ格段に高い給与水準になるだろうし、最先端の工場だけに、福利厚生や職場環境の面でも優位に立つのは間違いない。
近くにハイテク工場がある産地の中小企業の社長は「人員を確保していくには、5%程度の賃金アップは避けられない。ただ、これを実現するには、総人員を5%は減らさざるを得ない」と苦悩する。減員体制で同じ業績、特に収益を維持できるか。企画・生産・営業など、全ての面での根本的な「働き方改革」がここでも急務になってきている。