【新年特別号】平成のキーワード ハイファッション

2019/01/20 06:30 更新


 ハイファッションにおける30年を振り返ったとき、90年代後半に起こったラグジュアリーブランドの系列化が一つの節目といえる。LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトングループやケリンググループ、リシュモングループなどが、ラグジュアリーブランドを系列化して巨大なコングロマリットを形成した。それ以降、プレタポルテ(高級既製服)のコレクションとビジネスのあり様は大きく変容した。

服から雑貨へ

 「ニューヨークでデザインされ、ヨーロッパで作り、世界に売る」。「グッチ」のトム・フォード、「ルイ・ヴィトン」のマーク・ジェイコブス、「セリーヌ」のマイケル・コースといったデザイナーの起用が話題となった。老舗メゾンの持つハンドクラフトの技術と新しい才能との出会いに注目が集まった。こうした流れは、「ディオール」のジョン・ガリアーノや「ジバンシィ」のアレキサンダー・マックイーン、「エルメス」のマルタン・マルジェラといった起用にもつながった。

一大スペクタクルで話題となったマーク・ジェイコブスによる「ルイ・ヴィトン」

 90年代後半はパリのプレタポルテが一番輝いていた時期といえるのかもしれない。ロンドンやベルギーから次々と若手がデビュー、一時期のパリ・コレクションはオンスケジュールの裏側にオフスケジュールがびっしりという状況だった。相次いで新星が現れる状況と老舗ブランドのリブランディングがパリの活気を支えていた。

 老舗ブランドと注目デザイナーのマリアージュは、新しい市場を生み出した。それを支えるのは、コレクションでイメージを作り、バッグやアクセサリーでビジネスを作る仕組みだ。ラグジュアリーブランドの売り上げに占める既製服の割合は10~30%が中心。なかには10%未満のブランドもある。80年代までのデザイナーブランドのビジネスは、服を売ることが中心。90年代後半以降は、シーズンを越えて売ることのできる雑貨をいかに伸ばすかが問われるようになった。

 90年代末をピークに新しい才能の登場が減り始めると、ハイファッションはラグジュアリーブランドばかりが目立ち始める。時代を塗り替える新しいコンセプトをデザインするよりも、女性デザイナーによる女性目線のリアルスタイルが人気となった。ファンタジックなイメージをあおりながら雑貨を売るビジネスが雛形となった。

新しい才能が台頭

 この流れは現在も続いている。服がビジネスの中心ではないハイファッション市場は、かつてのように若手デザイナーが起業して新しいビジネスを築くことを困難にしている。一方で、あまりにラグジュアリーのコングロマリットの力が強くなりすぎて市場での寡占化が進むと、ある種の閉塞感が漂い始める。

 インディペンデントの若いデザイナーが次々と登場してこない状況は、ラグジュアリーブランドのビジネスにも影を落とす。アレキサンダー・マックイーンやジョナサン・アンダーソンの例にもあるように、ラグジュアリーブランドも時代ごとに台頭してくる新しい才能を取り込むことで、リブランディングを進めているからだ。だからこそ今は、ファッションアワードも手掛けて、若手をバックアップし始めている。

「アレキサンダー・マックイーン」の04年秋冬コレクションから

 ハイファッション市場において、インディペンデントのデザイナーの存在は生命線といえる。絶えず新しい風を吹き込む若手デザイナー、服を売ることをビジネスの軸にするインディペンデントのデザイナーの存在が、実はラグジュアリーブランドを含めたマーケットを支えている。新しい才能を生み出す教育とともに、その新しいクリエイションを大切にする売り場なくして、ハイファッションの未来はない。目先の数字ばかりではない、クリエイティビティーをビジネスにする覚悟が求められている。

(繊研新聞本紙1月1日付)



この記事に関連する記事

このカテゴリーでよく読まれている記事